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【政治からディズニーまで】ラテン屋さん『世界はラテン語でできている』

オススメ度:★★★★☆

 

ラテン屋さん『世界はラテン語でできている』

 

 本書のエッセンス
・ラテン語は知的好奇心を刺激する最高のコンテンツ
・ファシズムとファスケス
・ディズニーに関するラテン語もたくさん

 

感想

知的好奇心が刺激されるというのはどういったときであろうか。それは自らの知識の末端が伸びた時、あるいは一見無関係に思えた確か同士が結びついたときではないだろうか。

例えば、前者は名前だけ知っていた偉人について具体的なエピソードを知った時、後者はある2つの自然現象の原理が同じであると知った時などがあたる。

 

この定義に照らし合わせると、ラテン語は多くの人にとって二種類の知的好奇心を刺激する最高のコンテンツである

 

ゲームや映画で使われている名前や格言がラテン語由来であると知ることは前者に該当し、また一見異なる2つの言葉の語源を辿ると同じラテン語に行きつくような場合には後者の知的好奇心を刺激する。

 

さらに本書ではより楽しく読み進めることのできる工夫がされている。

多くの人に興味を持ってもらえるよう、宗教や政治に関する硬い話題から、ゲームやアニメといったライトなコンテンツについてのラテン語の関わりを示すことで、言語にあかるくない人でも入っていきやすくなっている。

もし本書がただの英語の語源集のような立ち位置であれば、ここまで新書としての面白さを醸し出すことはできなかったであろう。

読み手のバックグラウンドによらず楽しむことができるのが本書の魅力である。

 

身近なラテン語

ボリスとキンキンナートゥス

イギリスのボリス・ジョンソン元首相も、辞任する際のスピーチで「私はキンキンナートゥスのように、畑に戻る」と述べていました。(p.58)

キンキンナートゥスは紀元前5世紀ごろの人物で、古代ローマで執政官の職を終えた後、農園で暮らしていた。しかしそのあとアエクィー族の攻撃により国家が危機に陥ると、再び独裁官として召喚され、危機が過ぎた後には再び農園に戻っていったと言われている。

辞任のスピーチでこのような人物をあげるところをみると、ボリス・ジョンソンの貴族的な一面が垣間見える。

 

ファシズムとファスケス 

ファシスト党の前身は「イタリア戦闘ファッシ」からきている。ファッシとはイタリア語で「束」という意味で、語源はラテン語のfasces「束」だという。

ちなみに束ねた木の棒の間に斧を差し込んだ束桿のことを同じくfascesといい、トランプのダイヤのエースでユリウス・カエサルが手に持っている。これはファシスト党の党章にも描かれている。

また余談として、ムッソリーニ政権下の1938年において、イタリアから日本に「カピトリーノの牝狼」の複製が寄贈され、いまも日比谷公園に置かれている。

 

ハイタワー3世

東京ディズニーシーの外壁にハイタワー3世の紋章があり、そこには「世界は私のostreaである」とラテン語で書かれている。

この一文はシェイクスピア『ウィンザーの陽気な女房たち』に出てくる言葉で、「では、この剣にもの言わせ、貝の如くに閉ざしたる世間の口をこじあけて、真珠を頂戴するのみだ」と訳されている。

ラテン語のostreaは特定の貝類を指しているわけではないため、ここでは中に真珠を持つもの、すなわち牡蠣ではなくアコヤ貝と訳すのがよいといえる。

つまり 「世界は私のostreaである」は「世界は自分のものだ」という意味になり、帝国主義的なハイタワー3世にぴったりなセリフになっている。

 

リーマス・ルーピン

『ハリー・ポッター』シリーズに出てくるリーマス・ルーピン(Remus Lupin)先生は、名のRemusがローマ建国伝説に狼に育てられたとして出てくる「レムス」と同じ綴りで、姓のLupinはラテン語lupinus(オオカミの)から派生した英語lupine(オオカミに)から来ており、オオカミに変身する先生としてピッタリの名前になっている。

 

ラテン語と政治、ラテン語とエンターテイメントのどちらも楽しむことができた。旅のお供にもっていくのもよいかもしれない。