本と絵画とリベラルアーツ

※弊サイト上の商品紹介にはプロモーションが使用されています

【本の紹介】細谷功『「具体⇄抽象」 トレーニング』【思考法の基礎】

オススメ度:★★★★★

抽象化というのはある意味で(目的に合わせて)「都合の良いように特定の属性だけを切り取る」ことを意味しています。

細谷功『「具体⇄抽象」 トレーニング』

 

 本書のエッセンス
・具体-抽象の話はまずこの本を読め
・根本的問題解決は[具体→抽象→具体]で行う
・一つの系は抽象から具体へ流れる

佐藤優が著書の中で「すぐれた書籍は複数の読み方ができる」と語っていた。

なぜ複数の読み方ができるのか。それはその本の内容の抽象度が高いからである…ということにこの本を読んで気が付かせてくれたと同時に、この本の抽象度の高さ・応用範囲の広さに気付かされた。

ビジネス・学問すべての知的活動に役立つ基礎的な超良本

 

「具体⇄抽象」で問題解決する

根本的な問題解決のためには、[具体→抽象→具体]のステップを経る必要がある。

 

問題解決の前提には明示的にしろそうでないにしろ、現実問題としての課題が存在する。現実に起こる事象は[具体]であるから、問題解決は一般的に[具体]からスタートする。(本書でも指摘があるように、抽象から出発する問題解決は抽象論で片付けられ、机上の空論と化す。)

 

具体から出発した問題解決を、すぐに具体で解決しようとしてはいけない。

具体→具体の問題解決というのは、例えば水道管から水漏れしているので該当箇所にテープを貼ったや、顧客からこういう機能が欲しいと言われそのまま実装するなどがある。

 

一見なにも問題ない問題解決のようにも見え、私自身やってしまっているという自覚もあるが、この方法では根本的な問題解決にはならない。

なぜならば問題というのは根本原因から引き起こされる一現象に過ぎず、本質にアプローチできない限りは根本的解決にはならないためである。

上記の水漏れの例でいえば、根本原因が「水道管の老朽化」であるとすれば一部をふさいだところで同じ問題が発生するだろうし、もっと言えば「水道管の老朽化の管理不備」が根本原因であるならば、その問題の発生した水道管を修復するだけでは十分とは言えない。

 

発生した事象の原因をWhyで問うて問題を抽象化し、そのうえでHow=具体的な打ち手を考えることで、根本解決を図ることができる。

 

一つの系は抽象から具体へ流れる

本書でもっとも印象に残ったのが、第5章冒頭で語られる「一つの系は抽象から具体へ流れる」というテーゼである。

一つの閉じた系は時間とともに抽象→具体という不可逆な流れをたどり、また新しい系が始まるときに抽象から始まるという性格を持っているということです。(p.134)

 

一人の人間から仕事の進め方、会社や国家まで、抽象(少数・自由)から具体(多数・標準)へ、破壊的イノベーションを繰り返しながら一方通に進んでいく。

人間の身体はひとつの受精卵が分化し、組織・器官がつくられていく。また仕事であれば構想段階から設計構築へと進み、国家は一人の王が建国するところからやがて民主化していく。

この法則を応用することで、社会や産業、経済の移り変わりを分析できるかもしれない。

 

ツール・アプリケーション

またこの法則をタスクににも応用することで、仕事の抽象度によってどのようなツール・アプリケーションを使い分けるべきかということも考えられるようになる。

川上の構想段階といった自由度が高いフェーズでは、白紙やホワイトボードといったツールが相性がよい。これが具体化が進んだフェーズでは一定のフォーマットを持つプレゼンテーションアプリ、さらに川下では自由度の小さいワープロアプリ。そして最も川下の段階では制約条件があり標準化された表計算ソフトが適している。

特定のツール・アプリケーションに固執するのではなく、今求められている抽象度・自由度によって使い分けることが大切。

 

これを見ると、『メモの魔力』の前田裕二や『ゼロ秒思考』の赤羽雄二がかなり抽象度の高いレベルで思考・仕事をしていることが推し量れる。

 

***

 

目の前の仕事だけでなく、社会を見るときやキャリアを考えるときといったあらゆる思考活動に有用な内容となっていた。

本書の内容がピンとこない場合には、同著者『具体と抽象』も併せて読むことで理解を深めることができる。