オススメ度:★★★★★
会社と結婚するな、職能と結婚せよ!(p.36)
森岡 毅『苦しかった時の話をしよう』
USJを再建したことで知られる敏腕マーケターの森岡毅氏が、大学生の娘のために書いたキャリア戦略の本。
世の中の仕組みやキャリアを考えるうえで目を背けてはいけないことなどが、大胆かつ分かりやすく解説されている。
典型的なサラリーマンになりかけていた自分には、「会社ではなく職能と結婚せよ」というメッセージが強く刺さった。
本書のエッセンス
・会社ではなく職能(スキル)をキャリアの軸にする
・自分をマーケティングする
会社より職能(スキル)
会社と結婚するな、職能と結婚せよ!(p.36)
サラリーマンとしてキャリアを歩んでいると、自然とその会社でどう出世しようか、上司に気に入られるにはどうしたらいいだろうかという視点になってくる。この会社に心地よく居続けるにはどうふるまえばよいかという視点が固定化される。
しかし痺れるビジネスマンとして成長するためには、会社と結婚するべきではない。
この理由として、森岡氏は以下の2つの理由を挙げている。
②職能こそが、相対的に最も維持可能な個人財産であること
My Brandを作り上げる
個人的な話になるが、目標設定にあたり、日ごろ将来の理想の自分(長期)を設定して、そこから中期・短期と現在におろしてくる方法を用いていた。
これは受験勉強の方法論を応用したもので、受験の用にゴールが明確な場合にはステップが分かりやすく有効な方法だと思う。
しかしこの方法の弱点は、"現在の自分"を適用するフォーマット先がないことだ。あくまでゴールに必要な要素を段階的にクリアしていくだけであって、現在の自分がどれだけできて、何が得手・不得手かを考慮できない(もちろん苦手な分野に多くの時間を割く等の考慮は可能だが)。
しかしキャリアデザインにおいては、自分の好きなこと・楽しいと思えること・やりがいを感じられること・得意なことを盛り込むことが当然必要になってくる。
つまり、現在から出発したフォーマットもあることが望ましい。
その点で、森岡氏が利用しているMy Brand構築のための「ブランド・エクイティ・ピラミッド」は現在の自分を土台においている点で、長期目標からおろしてくる方法論をうまく補うことができる。
ブランド・エクイティ・ピラミッド
マーケティングの手法を応用したこの「ブランド・エクイティ・ピラミッド」は3階層(WHO/WHAT/HOW)の構造をとっている。
まず最上階であるWHOは攻略市場対象の部分集合となっている。キャリアにおいてはお客さんや上司が含まれる。
次のWHATは提供する価値そのものを表す。提供価値こそがブランドの"アンコ"である。
提供価値とは、提供するモノやサービスそのものではない。提供されるモノやサービスはあくまでHOW(手段)である。例えばトヨタが提供している価値とは車ではなく、快適な移動手段である。
価値は常に目に見えるとは限らない。この価値をWHO(ターゲット)に認めてもらうためには、根拠・実績が必要となる。
この実績のことをマーケティング用語で「RTB(Reason to Believe)」という。それは資格であったり、客観的な実績であったりする。
最後が具体的にWHOにWHATを提供する手段であるHOWである。
HOW(手段)にともなって「ブランド・キャラクター」も考えるとよい。
WHO・WHAT・HOWが明確になったうえで、価値の提供者の人格にも一貫性を持たせる。うまいラーメンをつくる親父はやはり、うまそうなラーメンをつくりそうな風貌をしている。
ブランド・キャラクターまでも一貫していることはWHOが評価する際の情緒に影響を及ぼす。
ブランド・エクイティ・ピラミッドを構築する際のポイント
② Believable:証明可能か
③ Distinctive:際立っていること
④ Congruent:自分の本質と一致していること
「欲望」が強いやつが勝つ
お金よりも遥かに私を突き動かす最大の「欲」は、知的好奇心を満たすこと。(p105)
森岡氏は資本主義の本質を人間の「欲」だと考えている。人間の欲望が資本主義のエネルギーとなり、社会を前進させている。
だとすれば、資本主義の構成要素である私たちが強くあるためには、それだけ強い欲望が必要ではないだろうか。欲望の強いやつが社会を中心に立ち、弱いやつは後塵を拝す。
『オメガトライブ』風に言えば、"資本主義は「欲望」が強いやつが勝つ"のではなかろうか。
では自分自身の「欲望」は何なのか。何を渇望し、何に情熱を燃やせるのか。自分自身を顧みる必要があると感じた。
資本家を射程圏に捉える
肝心なのは、資本家の世界を射程圏に捉えるパースペクティブを君が持っているかどうかだ。(p.66)
サラリーマンとして生きていると、サラリーマン以外の生き方が想像できなくなる。
もっと言えば、サラリーマンとして生きるように育ち、教育されてきた私たちは、サラリーマン以外の生き方、つまり資本家になることを忘れがちである。
これはサラリーマンを辞めて資本家を目指そうという主張ではなく、資本家というオプションが常にあることを考えてキャリアデザインすべしという意味になる。
この部分を読んで、資本家という選択肢に目を瞑ろうとしてないか、サラリーマン以外の選択肢を考えるのを自ら止めようとしていないかと思いハッとさせられた。