オススメ度:★★★☆☆
この銅メダルには本当に満足している。僕はロンドンで最高のレース、最高の泳ぎができたとおもっている。(p.18)
藤江直人『「立石諒」追い抜く力』

感想
夏季五輪のなかでも水泳は花形競技のひとつだ。
とくに2004年のアテナ五輪でみせた北島康介の圧倒的な泳ぎと「チョー気持ちいい」という名言は当時の注目を集め、平泳ぎは一躍人気競技へと躍り出た。このときのセンセーションはまだ幼かった私の記憶にも深く刻み込まれている。
そんな北島康介の後継者として名高かったのが、この本の主人公である立石諒だ。
この本は立石諒が学生時代に頭角を表してから北島康介をくだしてロンドン五輪で銅メダルを獲得までの栄光と挫折を丹念な取材によって描いたドキュメンタリーである。
いきなり立石諒の話からズレてしまうが、まずこの本を読んで私が驚いたのが「平泳ぎの100mと200mってそんなに違うのか」という発見である。
正直テレビで水泳を見ていて100mと200mで出場選手の顔ぶれがあまり変わらないところをみると「1回失敗しても2回目のチャンスがあっていいな」くらいにしか2つ別競技として存在している意味をとらえていなかった。野球などは散々戦って1メダルなのに対し、複数距離のある水泳などはたくさんメダルが取れてお得だとさえ思っていた。
しかしこの本を読んで、これらの競技がまったくことなる性質を持っていて、それぞれに望む選手たちのこころの中も全然違っていることが初めてわかった。
100mは陸上でいう短距離のような性質をもっており、とにかくフルパワーで最後まで泳ぎ切るのに対し、200mは中距離的な性質をもち、前半と後半のどこに全力をもっていくか駆け引きが生まれる。
後半の伸びに強みをもつ立石選手は200mを得意とし、事実ロンドン五輪で北島康介を破ったのも200mでのことだった。
もう一つ、印象に残ったのが水泳というキャリアハイが20代と早くくる競技において(多くのスポーツに共通するが)どれだけ自分のコンディションと周りの環境をコントロールするのが難しいかという点である。
テレビで見ている水泳選手はつねにすばらしい状態に仕上げ、結果を残していく。そのような姿を見ていると、速く泳げる選手は365日ずっと速いのではないかと錯覚してしまうが、実はそうではない。大きな大会のあとには休養期間に入り、また大会に向けて一気に追い込み状態を仕上げていく。それはまるで大会ではバキバキの身体を披露するボディビルダーがオフのあいだには贅肉をぶら下げている様子と重なる。
驚いたことに立石選手のようなトップ選手でも、オフの期間のタイムは中学生の記録にもビハインドするのだという。
それほどまでに選手のコンディションは繊細であり、コントロールが難しい。ましてや五輪という大舞台にむけては周りからのプレッシャーによるストレスも重くのしかかる。このような環境のなかで、30歳にもならない若者が戦っていかなくてはならない。
それをサポートするためのコーチやクラブも、当たり前に存在するわけではない。立石選手もロンドン五輪の前に一度所属していたクラブを辞め、どこにも居場所のない辛い日々を送ったと回顧している。
このような事実を知っているのと知らないのでは、オリンピックやその他のスポーツの大会を見る目もまったく変わってくるだろう。
このような熾烈な環境を戦い抜き大舞台で活躍する選手を、これまで以上にもっと応援したいと思った。



