オススメ度:★★★★☆
優れたリーダーは、人の心を動かす。優れたリーダーは人の情熱に火をつけ、最高の力を引き出す。(中略)優れたリーダーシップは、感情のレベルに働きかけるものなのだ。(p.18)
ダニエル・ゴールマン『EQリーダーシップ』

本書のエッセンス
・4つのEQコンピテンシー
・6種類のリーダーシップの使い分け
感想
スター・ウォーズ
先日すこしキッカケがあり『スター・ウォーズ』シリーズのⅠからⅨまでの9作品を初めて見た。
あまりに有名なので説明もいらないと思われるけれど、あえて説明するならばルーク・スカイウォーカーという青年を中心に、宇宙で起こる光と暗黒の力をもったものたちの戦いを描いたSF作品である。
作品は若き英雄ルークとダース・ベイダーの戦いを描いたの旧三部作、ダース・ベイダー誕生の物語である新三部作、そして秩序を失ったあとを描いた続三部作の3パートで構成され、さらにこれらのまつわる多くの外伝作品がつくられている。
私は特に新三部作と旧三部作のあいだを描いた外伝である『ローグ・ワン』が好きで、物語の最後でダース・ベイダーが反乱軍の船に乗り込んできたときの絶望感がたまらなくよかった。
さて『スター・ウォーズ』では「フォース」という超科学的な現象が重要な要素として出てくる。
「フォース」は万物を結びつける大きな"氣"のようなもので、鍛錬を積むことで触れずにモノを動かしたり、人のこころを操ったり、テレパシーを送ることができ、その性質から光と暗黒に分けられる。主人公らジェダイは光のフォースの使い手となり、暗黒のフォースの使い手であるシスの暗黒卿と対峙する。
ここで重要なのが、フォースは元来の特性によって光と暗黒に分けられるのではなく、使い手のこころ次第でどちらにも転ぶという特性である。自分を律し、誠実なこころをもっていれば光の戦士となれるが、怒りや不安、執着にとりつかれればたちまち暗黒面に堕ちてしまう。つまり善き心の持ち主でも、こころの過ちによって暗黒面に堕ちることもあるし、逆も然りである。
リーダーシップとEQコンピテンシー
リーダーのいちばん大きな役割は、すでに多く指摘されているように、仕事に対する興奮や楽観や喚起し、同時に協調と信頼の空気を醸成することだ。(p.59)
本題の『EQリーダーシップ』に入る。
本書によると、優れたリーダーにはEQコンピテンシーを保持している。EQとはEmotional Intelligence Quotient(感情知能指数)の略で、自己や他人に対する感情の感度を表す。たとえば自分のなかに生まれた不安を適切に処理したり、チームの状況をみて適切な言葉をかけたりする能力がこれにあたる。
リーダーの感情はチームに伝染することが知られている。したがってEQの低い人物がリーダーとなると、リーダーのコントロールできない負の感情がチームメンバーにも伝わってしまい、結果チームのパフォーマンスにも負の影響を及ぼしてしまう。
これまで強調されてきたリーダーのハードスキルと同等またはそれ以上に、リーダーが高いEQを持っていることは実益の面でも重要なのだ。
リーダーシップと一口に言っても、振る舞い方によって6つに分けることができる。
たとえばリーダーシップには共通の夢を見せて人々を動かす「ビジョン型」や個々人の希望を組織の目標に結びつける「コーチ型」などある。大別されたこれらのどのリーダーシップをとったとしても、これらには共通する4つのEQコンピテンシーが存在する。
4つのEQコンピテンシーとは自己認識・自己管理・社会認識・人間関係の管理である。前者2つが自己に関すること、後者2つが他者に関する内容になっている。
自己省察の習慣をもつようになると、自己の感情を認識できるようになり(自己認識)、自己の感情がわかるとそれをコントロールしたり(自己管理)、他者の気持ちを認識できるようになる(社会認識)。そして自己管理・社会認識ができると、人間関係を適切に管理することができる。
たとえば自分がリーダーを務めるチームにおいて、チームメンバーの手違いによる問題が発生したとする。このときリーダーはまずこころに生じた怒りと不安を認識(自己認識)し、それを適切に処理しなくてはならない(自己管理)。そしてなぜそのようなことが起きてしまったのか、怒りをぶつけるのではなくメンバーの気持ちに立ち考え(社会認識)、立て直しの指揮をとる(人間関係の管理)。
このようにいずれのリーダーシップの型を採用するにしろ、リーダーがEQコンピテンシーをもつことは、適切なチーム運営に不可欠である。
これら4つのEQコンピテンシーはどれも重要であるけれど、わたしがふとページを捲る手を止めたのが「自己管理」のパートである。
フォースとリーダーシップ
やっかいなのは、(不満や怒りや不安やパニックなどの)そうした負の感情が圧倒的な支配力をもっていることだ。(p.82)
つねに自分と自分の感情の手綱を握っていようと思っても、それらはしばしば圧倒的な負の感情によって押し流されてしまう。この引用文を読んだとき、内容に共感するとともに「フォースの概念と同じだな」と最近見ていた『スター・ウォーズ』がふいに思い出された。
前述のとおりフォースは使い手の感情によって光にも暗黒面にもなり、とくに暗黒面が絶大的なパワーをもつ。圧倒的な力をもつ一方で、使い手は善悪の区別を失い力の支配だけの価値観に堕ちてゆく。
アナキン・スカイウォーカーは愛するものへの過剰な執着により力を追い求め、彼のフォースは暗黒面に飲み込まれてしまった。
だからこそジェダイたちはより崇高かつ堅牢な精神を持ち続けるため厳しい修行に身を置き、つねに正しい思考、正しい行動を取ろうと努力している。
まさにこの本の「自己管理」で述べられていたのはこのような点で、チームや部下をもつリーダーは負の感情による破壊的な作用をよく理解し、自分を強くもつための鍛錬を日々積まなくてはならない。この本ではこの鍛錬のための心持ちを「誠実さ」で表現している。
誠実さとは、衝動をコントロールし、後悔するような行動に走らないことだ。誠実さとは、また、自分の価値観を守って生きるということだ。(p.85)
自分とは、この世でもっとも厄介な相手ながら、一生付き合っていかなくてはならない宿命を負っている。ましては自分自身がチームや部下をもっている場合、自分との付き合い方は自分だけの問題にとどまらない。
どのように考え振る舞うことがEQを高めより善く生きることに繋がるか、そのヒントが『スター・ウォーズ』のジェダイに見出せるのではないだろうか。
感情的現実
リーダーは人々の感情、組織の感情的現実の底に隠れているもの、組織をまとめている文化など、目に見えないものに注意を払う必要がある。(p.312)
この本の中ではたびたび「感情的現実」という言葉がつかわれている。この言葉について明示的に定義されているわけではないが、第9章のある箇所では「(メンバーが)チームの一員でいることをどう感じるか」と説明されている。
つまり「感情的現実」とは物質的な現実に加えて組織の各メンバーから見た時にどのように見えているかを示している。一見教科書通りの"正しい"組織運営がなされていたとしても、必ずしもそれが組織において善く機能しているとは限らない。それはその組織に所属している人たちの考え方や主義信条、バックグランドが考慮されていないからであって、人々の感情を無視しての組織運営は決してうまくはいかない。
「感情的現実」という言葉は新しいかもしれないが、概念時代は古くからあり、その取扱いに苦心してきた。
例えば自分の感情的現実にどう向き合うかについてはローマ皇帝・マルクス・アウレリウスが『自省録』のなかで感情的現実を分解して現実だけを見るよう忠告しており、また他者の感情的現実を認識することの重要性は社会学者・岸政彦により「他者の合理性」という言葉で主張されている。
個人にしろ組織にしろ、善く生きるために「感情的現実」はひとつのキーワードになるのだと、改めて感じた。



