オススメ度:★★★☆☆
本を読まない人を好きなの?(p.73)
角田光代『さがしもの』
本書のエッセンス
・本にまつわる短編集
・本とのかかわりは人それぞれ
・気軽な気持ちで楽しんで最後まで読める
あらすじ
古本屋に持ち込むと「あんたこれ売っちゃうの?」と訊かれ売ってしまった古本と、意外な場所で巡り合う「旅する本」。不幸続きの女子大生が台湾旅行で占い師に本が災いの元だと言われ、その本を元カレに譲ろうとする「不幸の種」。だれとでもすぐ寝てしまう女子大生がたくさんの書き込みがある「伝説の古本」を探す「引き出しの奥」。
本にまつわる9つの作品からなる短編集。
感想
島田潤一郎の『長い読書』は、読書家・島田氏の人生のそれぞれの場面での本との関わり合いが描かれていた。こちらの作品はさまざまな人の目線から本との交流を描いている。
本はなにも本好きの物だけではない。本を毎日読む人がいる一方で、自分のお金で本なんか買ったことない人もいる。小さいころから本が好きな人もいれば、大人になってひょんなことから本を読むようになる人もいる。
この短編集では本好きに限らず、本とのかかわりがある様々なタイプの人を描いている。
この本で印象に残ったセリフが2つある。
本を読まない人を好きなの?(p.73)
本の趣味がドンピシャで合う彼氏と付き合い同棲までしていた女の子が、他の女の子に目移りした彼氏に言ったセリフである。
好きな人ができたと告白され、最初に出てきた言葉がこれであった。
彼氏に対し怒るでもなく、むせび泣くのでもなく、ただただ彼氏がつまらない女に捕まったことを悲しんでいるのがとても想像できる。本でつながっていた彼氏が、本以外のつながりの女に取られたことは、もう自分には入る隙がないのを感じている。
またもう一つが表題作「さがしもの」からのセリフ。
「…いつだってそうさ、できごとより、考えの方が何倍もこわいんだ」(p.183)
死んだおばあちゃんが幽霊となって出たとき、孫娘が死ぬのが怖かったか聞いたときの答えである。
仕事でもプライベートでも、想像から生まれる恐怖はどこまでも膨らみ、不安のどん底に私たちを突き落とす。しかし実際にできことが始まってしまえば肝が据わるのか想像していたときよりも痛みは少ない。のど元過ぎれば熱さ忘れるというのは、まさにその通りなのだ。
全体通してリラックスした気持ちで読める素敵な作品ばかりだった。
本を読みなれていない人にもオススメできる良作。