オススメ度:★★★★★
〝いいかい? 君はいつの日か、君が本当に届けたい人に、本当に届けたい何かを届けるんだ〟
中村航『星に願いを、月に祈りを』
本書のエッセンス
・青春夏小説
・村上春樹:角田光代 = 2:8
・夢と現実が同時にあるような読書体験
あらすじ
小学5年生の大介と麻里、4年生のアキオは、児童館のキャンプの夜ホタルを見るために懐中電灯を手に3人だけで夜の森に抜け出す。
暗い夜に道に迷う3人のラジオからは、星空放送局を名乗るなぞの深夜放送が流れている。
彼らは小学校から中学、高校へと成長、またあの不思議なラジオ放送と人生が交差し、その秘密が明らかになっていく。
感想
高校生のときの部活の合宿で、はじめて流れ星を見た。
夜中に千葉の九十九里浜の合宿所を抜け、開けた原っぱにみんなで仰向けに寝転がった。生い茂る草が少し湿っていて、ひんやりと冷たかったのを覚えている。
寝転ぶと普段の街じゃ明るすぎて見えなかった星々が視界の端から端まで広がり、その感動で小声で囁きあっていた部活の仲間たちが一瞬静かになった。静かになったけれど、みな同じ気持ちになったのを感じた。
しばらく星を眺めていると、ネコが引っ掻いたみたいに光が薄く伸びるのが見えた。短い流れ星だった。
そのあとも不定期に短い流れ星が祈る間もなく光っては消え、また光っては消えていった。
この本を読んで、すっかり忘れていたこの記憶がじわじわと甦ってきた。
当然であるが小説の構成というものは三者三様である。
序盤からフルスロットルで駆け抜けるものや、ミステリーのように最後の最後でどんでん返しするものなど様々である。
この小説はというと、中盤から一気に読者を飲み込んでいくタイプだと思う。
物語は、このストーリーの核心から一番遠いところから始まる。正直はじめの方は特に変哲のないティーン小説だなという印象が強かった。
中身にどっぷり入って行かない分技法の方に目が行き、随所随所にラジオ放送を挟む構成は村上春樹の『風の歌を聴け』のオマージュだなあとか、全体の文体は角田光代に似ているなあなどと思ったり、また文章そのものについても「小学生の感情表現がメタすぎやしないか」などと、心はしばしば本書から脱線し、面白くない授業を受ける学生が窓の外を眺めるような、イマイチ感情が入りきらないまま読み進めていった。
雰囲気が変わるのが第三章 約束の世界からである。
この章はこれまでの章と少し変わっている。
これまでの章が小学校の時のキャンプファイヤーや中学の部活動など、リアリティのあるお話であったが、約束の世界は入りからどこかぼんやりとしていて、白昼夢のような印象を受ける。
しかし読み進めていくといくつかの発見から白昼夢から目覚めさせられる瞬間があらわれる。
この目覚めた瞬間こそストーリーは手触りを帯び、一方読者は深い読書の世界へと飲み込まれていく。
物語が現実になり、現実が虚構に取り込まれる。
読者はしばしこの夢の中を探検させられ、飲み終えると静かに現実に戻される。
抽象的でイメージしにくいかもしれないが、この現実と虚構の間を往復させられるような不思議な感覚こそが、この小説から得られる読書体験なのだと思う。
虚構の中で読者の心はむき出しになり、言葉と直接触れ合い、揺れ動く。
幸せなシーンでは心の中からじんわりと温まるのを感じ、悲しいシーンでは心が静かに涙を流す。
交わらない遠く離れた星々が同時に存在しているように、夢と現実が同時に存在していると感じさせてくれる素敵な小説であった。