オススメ度:★★★☆☆
存在も見方も多様でありながら、誰もが常に同一の対象に関わっているという事実こそがリアリティを保証するのである。(p.76)
牧野雅彦『ハンナ・アレント 全体主義という悪夢』
著者:牧野雅彦(1955~)
神奈川県生れ。広島大学大学院社会科学研究科教授。京都大学法学部卒業後、名古屋大学大学院法学研究科修士課程修了。
感想
「現代新書100」というレーベルが、講談社より創刊された。通常の新書が200ページ強であるのに対し、「現代新書100」は100ページを基本とし、より手軽に楽しめるようになっている。
「新書の権威が落ちた」という意見も見られたが、本が売れない時代に門戸を広く開けておくことは良いことだと思った。
共通世界
人間の活動は、「労働」「仕事」「行為」に分けられる。生産と消費を行う「労働」、自然の素材に手を加えて具体的なものを製作する「仕事」、そして人間同士で行われるのが「行為」である。「行為」によって人は他者との間に網の目のような関係=共通世界を作り出す。その「共通世界」のなかで「行為」は行われ、また「共通世界」は存続していく。
人は共通世界のなかで統合された他者の目線を理解し、「共通感覚」を獲得する。共通感覚はそのままその人の倫理となる。
全体主義はその共通世界を破壊し、人々の判断力を奪う。共通世界を破壊された後、人々が拠り所にするのは論理である。ヒトラーは「人種の優劣」を、スターリンは「階級闘争」の論理を持ち出し利用した。
リアリティ
面白いと感じたのが、リアリティとは何かについてかかれた部分である。
リアリティを保証するものは、世界の構成員が対象を同一的な見方をすることではない。存在も見方も多様でありながら、誰もが常に同一の対象に関わっているという事実こそがリアリティを保証するのである。(p.76)
どれだけ自分が本物だと感じていても、他の人からの評価がなければリアリティを保ち続けることはできない。例えば、自分だけに見えていて他の人に見えないものがあるならば、いずれそのものが実在することに対する自信を失っていってしまうだろう。
自分の生きている世界にリアリティを感じるためには他者の評価が必要不可欠であり、これがなければ自分の世界だけでなく、自分自身の存在そのものに対してもリアリティを失っていってしまう。そういう意味でやはり人間は社会的な動物なのだろう。
孤独が精神を蝕んでいくのも、このあたりに答えがあるのではないかと感じた。