本と絵画とリベラルアーツ

※弊サイト上の商品紹介にはプロモーションが使用されています

川上和人『鳥類学者だからって鳥が好きだと思うなよ』【読書感想文にもオススメ】

オススメ度:★★★★☆

私は骨格標本を集めている。変態だからではない。鳥類学者だからだ。(p.81)

 

川上和人『鳥類学者だからって鳥が好きだと思うなよ』

著者:川上和人(1973~)

大阪府生まれ。東京大学農学部林学科卒、同大学院農学生命科学研究科中退。現:国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 野生動物研究領域 島嶼性鳥類担当チーム長。著書にベストセラーとなった本書他、『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』など。

 

感想

前からタイトルが気になっていて、このシリーズの新刊が出たということでとりあえずこちらを買ってみました。

鳥類学者という耳馴染みのない学者のエッセイでしたが、文章が面白くてどんどん引き込まれていました。この文章の面白さはさくらももこを彷彿とさせます。とにかく言い回しが面白い。

例えば、

騙されちゃいけない。美しいだけの自然なんてない。テレビの風景は嘘ではないが、真実の一部でしかない。裏切りのない不二子ちゃんなぞ魅力半減だ。(p.75)

最後の一文は説明文としては必要ありませんが、この余計な一言がとてもいいスパイスになっています。このような表現が続いてるため、最後まで飽きることなく読み切ることができます。

 

もちろんただ面白い文体であるだけでなく、クレバーな冗談もちりばめられています。

一般的に捕食者は爪などの攻撃手段が発達して、被食者はウロコなどの防御手段が発達します。これをもとに筆者は映画やゲームで登場するドラゴンを以下のように指摘しています。

銀幕ではドラゴンが全身にトゲを生やし、主人公を恐怖の奈落に突き落とす。しかし、形態から察するにそいつは捕食者に怯える弱者だ(p.131)

つまりマリオに出てくる悪役のクッパは、その形態だけをみれば食う側ではなく、食われる側だというのです。これは大変面白い見方です。

このように知識や教養があると世の中を違った視点で見ることができ、より世界を楽しむことができることがわかります。

 

私も高校時代理数科に通っていたので、伊豆大島とカルフォルニアにフィールドワークしに行ったことがあります。そのときは正直自然にまったく興味がありませんでした。なので覚えてることと言えば、岩石の見分けがつくようになったことと、溶岩にスマホ落として画面をバキバキに割ったことくらいしかありません。

この本を読んでみると大変惜しいことをしてしまったなと、今になってとても悔やまれます。普段いかないところへフィールドワークに乗り出し、新しい発見に胸を躍らせる体験がいかにロマンあることだったかを思い知らされました。

 

本書は一応エッセイに分類されますが、感覚としては新書とエッセイの間という具合でした。筆者の出来事が自叙的に書かれている側面もありますが、同時に鳥類学に関する知識も添えられています。

これまで知らなかった鳥の生態や特徴、また鳥類学者の用いる調査方法はとても興味深かったです。

特に足の形態の特徴からチョコボールのキョロちゃんを分析するパートはかなり面白かったので是非読んでみて欲しいです。