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【読書感想文】角田光代『キッドナップ・ツアー』【夏休み小説】

オススメ度:★★★★☆

わたしはもっと目をこらす。ふいに頭に思い浮かんで、今目の前にあるすべてより色濃く見えてきたその光景が、いったいなんなのか思い出すために。(p.133)

 

角田光代『キッドナップ・ツアー』

著者:角田光代(1967~)

神奈川県生れ。早稲田大学第一文学部卒業。1990年に『幸福な遊戯』でデビュー。『対岸の彼女』で第132回直木三十五賞受賞。その他著書多数。

 

あらすじ

夏休み初日、ハルはアイスクリームを買いにコンビニに向かう途中、二か月家に帰っていなかったおとうさんにユウカイされた。適当で、甲斐性もない父に、ユウカイの目的も知らされぬまま連れまわされるハル。はじめはぎこちなく、どこかムズムズするような関係であった父娘であったが、極貧キャンプや真夜中の海水浴、宿坊での体験を通してその関係が変化し、また冷めていたハルもたくましく成長していく。

 

感想

雪の降る寒い季節ですが、ふと夏休みの雰囲気を感じられる小説が読みたくなりこの本を選びました。

この小説の肝は父娘の関係にあります。物語の初めの頃の、何を話していいかわからず、逆に話し過ぎてしまう気持ちにはとても共感しました。その場の空気が苦しいから、それを隠すためにどうでもいいことをつらつらと並べてしまうものですよね。

この小説の中で、特に私が感動したのは角田光代さんの美しい情景の描写です。宿坊の場面ではじめて来た境内と、すっかり忘れてしまっていたかつて住んでいた家とを重ねていく場面では、本当に自分がその家に住んだことがあるかのような錯覚に陥り、ないはずの懐かしさを感じました。

夏を感じたくなった時、オススメの本です。