今回は新約聖書の一説をモチーフとするティッツィアーノの「ノリ・メ・タンゲレ」 を紹介します。
「ノリ・メ・タンゲレ」を理解する2つのポイント
①「ノリ・メ・タンゲレ」の意味とは??
② 抒情的な表現
ティッツィアーノ「ノリ・メ・タンゲレ」
「ノリ・メ・タンゲレ」の意味とは??
「ノリ・メ・タンゲレ」とはラテン語で「わたしに触るな」という意味です。
この絵画は新約聖書:ヨハネによる福音書20章14 - 18をモチーフにしています。
イエスの処刑後、マグダラのマリアがイエスの墓の前で泣いているところに復活したイエスが現れました。はじめマリアは復活したイエスをここの墓地の番人と勘違いしますが、イエスが「マリア」と語りかけると気が付き彼に向って「ラボニ(先生)」と呼びかけます。
マリアがイエスに触れそうになると、イエスは「ノリ・メ・タンゲレ(私に触ってはいけない)私は、まだ父のみもとに上っていないのだから。ただ、わたしの兄弟たちの所に行って、『私は、私の父またあなたがたの父であって、私の神またあなたがたの神であられるかたのみもとへ上って行く』と、彼らに伝えなさい」とマリアに言い渡しました。マリアは言いつけ通りにイエスの弟子たちにこのことを伝えました。
ちなみにこのマグダラのマリアとイエスの母である聖母マリアは別人です。
マグダラのマリアは七つの悪霊をイエスに追い出してもらい、またイエスの埋葬を見届けた人物で西方・東方の両キリスト教協会において聖人のひとりとして数えられています。
抒情的な表現
この絵画はティッツィアーノのキャリアの初期に描かれた作品で、この時期に描かれた作品は兄弟子・師匠だったジョルジョーネの影響を受けているものが多いです。
ジョルジョーネは若くして亡くなってしまい、その確実な真作の数は数点しか存在しません。しかし彼が美術界にもたらした影響は大きく、とりわけティッツィアーノはジョルジョーネの助手を務めるなど深い関りを持ちました。
ジョルジョーネの作品の特徴はなんといってもその「抒情的な表現と色使い」にあります。
従来の西洋絵画は先にデッサンをしっかりと行い、最後に塗り絵のように色が付けるのが一般的でしたが、ジョルジョーネは初めから絵の具を使用することで今までにない色彩感あふれる印象的な作品を生み出しました。また先に構図を決定しなくなったため、描きながらイメージを変更することも可能になりました。
現在では普通である絵の具をはじめから使って描く手法も、当時はかなり斬新なものだったのですね。
ティッツィアーノの「ノリ・メ・タンゲレ」もX線による調査の結果、風景に描きなおしたあとが多くあったことが明らかになっています。
まとめ
「ノリ・メ・タンゲレ」の意味は「私に触れるな」というなかなか強烈なものでした。
聖書の知識があるとより西洋絵画を楽しむことができます。逆に絵画を鑑賞することでキリスト教の教養が身についていくのも絵画鑑賞の醍醐味の一つなのです。
本日のまとめ
①「ノリ・メ・タンゲレ」の意味は「私に触れるな」
② ジョルジョーネから影響を受けた抒情的な表現
今回紹介したティッツィアーノ「ノリ・メ・タンゲレ」はロンドン・ナショナル・ギャラリー展で楽しむことができます。
もし今回この作品に興味を持たれましたら実際に見てみることをおススメします!
ロンドン・ナショナル・ギャラリー展
会場:国立西洋美術館(東京都)
開催期間: 2020/03/03(火) 〜 2020/06/14(日)
開館時間:9:30 〜 17:30(金・土曜日は20:00まで)
休館日:月曜日(但し3/30、5/4は開館)
(詳しくは公式HPをご覧ください)
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