スペイン黄金期を代表する宮廷画家ベラスケス。
時のスペイン王フェリペ4世に気に入られたベラスケスは生涯をスペイン・ハプスブルク家に捧げ、画家としてだけでなく城の役人としても活躍しました。
宮廷画家であったベラスケスはひとつひとつの作品に時間をかけたため各作品の完成度が高く、残した作品の数は少ないことで知られています。
今回はベラスケスの作品を鑑賞するときのポイントを3つのポイントからわかりやすく解説していきたいと思います!
ベラスケスの作品の鑑賞の3つのポイント
①スペイン・ハプスブルク家の宮廷画家
②巧みな人物の内面表現
③印象派に与えた影響
スペイン宮廷画家:ディエゴ・ベラスケスの紹介
①スペイン・ハプスブルク家の宮廷画家
ベラスケスはそのキャリアの大半を宮廷画家として過ごしました。
ベラスケスは11歳から18歳までをパチェーコという当時有名だった画家の下で修業した後、独立して画家になりました。24歳とときに時の訪れたスペインで時の国王フェリペ4世にたいそう気に入られ、宮廷画家としてのキャリアをスタートさせます。ベラスケスは宮廷画家としてだけでなく王宮職員の役職も与えれ、その後死ぬ直前までハプスブルク家のために働き続けました。
彼は61歳で死にましたが、これも王宮での仕事による過労が原因でした。
1660年に主君のフェリペ4世の娘マリア・テレサと、太陽王とも呼ばれたフランス・ブルボン朝の国王ルイ14世との結婚式が行われました。(ちなみにこの結婚により継承関係がややこしくなり、数十年後幾度にわたる継承戦争が勃発する原因にもなります)
この時結婚式の総責任者の白羽の矢が立ったのがベラスケスでした。当時60歳だった彼はとてつもないプレッシャーの中で職務を全うし、式を見届けるとその翌年役目を終えたかのようにこの世を去ったのです。
宮廷画家として王宮で働けたことは多忙という面でベラスケスを苦しめましたが、一方で彼を画家として大成させる要因にもなりました。
ベラスケスは宮廷画家として働く中で、スペイン領ネーデルラント(現:ベルギー)から外交官として派遣されてきたルーベンスと出会い親交を深め、宮廷の豪華なコレクションを研究や時には買い付けのために行ったイタリアでの修行などを通して作風を発展させていきました。
こうした多くの“本物”の絵画や画家との接触の中でベラスケスは教養と実力を高め、ついにはマネをして「画家の中の画家」と言わせしむ高みにまでたどり着いたのです。
②巧みな人物の内面表現
宮廷で長い時間を過ごしたベラスケスは宮廷内で暮らす多くの人々の肖像を残しました。そして身分を問わずそれらの作品に共通している特徴として、人物の尊厳や威厳といった内面を巧みに描き出していることがあげられます。
以上の2枚の絵は同じバロック美術の画家が描いた国王の肖像画になります。
これらは似た構図で威厳がよく表現された二枚でありますが、その表現方法には大きな違いがあります。
まずリゴーの描いたルイ14世の方では後ろの柱から絨毯にいたるまで金色がふんだんに使われ、バロック美術らしい“豪華絢爛” というイメージが強く伝わってきます。さすがヴェルサイユ宮殿の主らしい金と権力の強さが感じられます。
一方のベラスケスの描いたフェリペ4世の肖像画を見ると、登場する一つ一つの小道具が比較的質素であることがわかります。絶頂期ではないといえかの世界一の名家ハプスブルク家です。豪華にしようと思えばいくらでもできたはずです。しかしベラスケスはあえてそれらの要素を排除して、国王の人格の気高さを描き出すことに成功しました。
ベラスケスが描いたのは宮廷の王族だけではありません。彼は宮廷で暮らす小人や道化師についてもしばしば描いています。
この絵は王太子の遊び相手として宮廷で暮らしていた矮人を描いたものです。
この絵の特徴は、矮人の目線が見る人と同じ高さになるように描かれていることです。こうすることで見る人と絵の中の人物が“対等”になり、作中の人物の尊厳がダイレクトに伝わってきます。また顔の周りの背景が影で暗くデザインされており、見る人の視点が人物の顔に向かっていきます。
この絵画を眺めていると、中の人物が「ある」のではなく、「いる」のであることがひしひしと伝わってくるでしょう。この矮人の中に存在する尊厳が見事に表現されています。
洗練された技術力の高さによってベラスケスは人物の尊厳を巧みに描き出しているのです。
③印象派に与えた影響
もう一つ、ベラスケスが絵画史において重要である点として彼が印象派に影響を与えたということがあります。
こちらは先ほどのベラスケス「スペイン王フェリペ4世」を拡大した画像になります。
離れてみると模様であった部分が、拡大すると筆の跡の集まりであることがわかります。このように筆の跡を並べて描くスタイルはのちの印象派が好んで用いられました。
ベラスケスの作品はのちの美術史における一大ムーブメントの布石となったのです。
印象派のなかでもマネは特にベラスケスに心酔し、背景表現の面でその影響を色濃く受けています。こちらについては以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてみてください。
まとめ
宮廷画家として活躍したベラスケスは、本物の美術に触れながら独自の作風を確立していきました。そしてそれらの息遣いは印象派へと受け継がれ、また美術史の一ページとして刻まれていったのです。
ベラスケスを理解するポイントは以下の三つになります。
①スペイン・ハプスブルク家の宮廷画家
②巧みな人物の内面表現
③印象派に与えた影響
これらを踏まえたうえでベラスケスの作品や、印象派の作品を鑑賞することで一層体験価値が高まるはずです!
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