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【絵画の解説】フェルメール「ヴァージナルの前に座る女」【ヴァージナルとは?】

ヴァージナルの前の女性が何かに気付いたようかのようにこちらを振り返って見ている。

壁にかかっている絵や身なりを見ると高貴な女性のようです。

 

この作品はフェルメールの画家人生の終盤に描かれたもので、初期のすっきりとした構図に対して晩年特有のごちゃごちゃとした構図をしています。

 

今回はこの「ヴァージナルの前に座る女」について解説していきます!

 

この絵画を見るポイント

・美しいフェルメールブルー
・壁にかけられている絵
・対になる作品

 

「ヴァージナルの前に座る女」の解説

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「ヴァージナルの前に座る女」 1670〜62年頃 ロンドン・ナショナル・ギャラリー

フェルメール作品ではしばしばこの部屋が登場しています。

この部屋は裕福であったお義母さんの家の2階だと言われています。

 

以下ではフェルメールの代名詞でもあるブルーやこの部屋に飾られている絵、対になっている作品について解説していきます。

 

*ヴァージナルとその歴史
ヴァージナルとはグランド・ピアノのような鍵盤楽器のひとつで、多くの場合チェンバロとあまり区別されずに使われています。
フランドル地方では17世紀後半にルッカース一族によって響きが長続きするよう改良され、後のチェンバロに影響を与えました。
長い間活躍したチェンバロでしたが、18世紀に音の強弱表現に長けたピアノが登場すると次第姿を消していきました。

 

フェルメール・ブルー

この絵画の色彩面で特に目を引くのが、女性が召している服やカーテンに使われているブルーです。

 

このブルーはウルトラマリンブルーという色で、ラピスラズリという鉱石を原料とする顔料が使われています。

ラピスラズリは遠く離れたアフガニスタンでしか取れず、当時は金と等価で取引されるほどの高価なものでした。

 

裕福であったフェルメールはこの色をよく使っていたため、このブルーは「フェルメール・ブルー」と呼ばれるようになりました

 

 

壁にかけられている絵

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「取り持ち女」 1622年頃 ディルク・ファン・バビューレン ボストン美術館

絵の右上に目をやると、大きな一枚の絵が飾られています。

この絵はディルク・ファン・バビューレンの「取り持ちの女」という作品で、左から売春婦の女性、リュートを持った売春婦を買う男、その仲介の女(取り持ちの女)が描かれています。

 

バビューレンはフェルメールと同じオランダの画家で、バロック美術の巨匠であるカラヴァッジョの影響を強く受けました。

 

この絵は資産家であったフェルメールの義母が実際に所有していた絵画で、フェルメールの作品に2回ほど登場しています(「ヴァージナルの前に座る女」と「合奏」)。

 

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2つの絵をよく見ていくと、「取り持ちの女」では、音楽と音楽の持つ軟派でみだらな側面が表現されています。

売春婦の金額を示す取り持ちの女の横で、男が硬貨を見せていることで一層いやらしさが強調されています。

 

対して「ヴァージナルの前に座る女」からは上品な感じがします。

美しく彩色されたヴァージナルの前で、きれいな召し物を着た女性が静かにこちらを眺めている様子は、上品さと高貴さを感じさせます。

 

フェルメールはこのように上品さと下劣さを対比させることによって音楽のもつ二面性や多義性を表現しました。

 

 

対になる作品:「ヴァージナルの前に立つ女」

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左:「ヴァージナルの前に立つ女」 1670~72年頃 ロンドン・ナショナル・ギャラリー
右:「ヴァージナルの前に座る女」 1670~72年頃 ロンドン・ナショナル・ギャラリー

 実は「ヴァージナルの前に座る女」には同時期に描かれた対になっていると考えられている作品があります。

 

それがこの左側の作品である「ヴァージナルの前に立つ女」です。

こちらの絵ではイスをヴァージナルの傍らに置き、「ヴァージナルの前に座る女」よりも年上と思われる女性がこちらを向いて見ています。

 

この2つの作品の最大の違いは、「光」にあります。

 

*****

 

太陽の光を愛するオランダ人には、光の細微な違いが分かると言われています。

とりわけフェルメールは「光の魔術師」と呼ばれるほど光を研究し、光を巧みに扱った画家でした。

 

「ヴァージナルの前に立つ女」(左)を見ると、部屋の角に人物が配置され左端の大きな窓からは自然の光が差し込んいでいます。

これはフェルメールが好んで使った構図で、多くの作品で見ることが出来ます。

 

一方で「ヴァージナルの前に座る女」(右)では同じ部屋の角ですが窓は閉ざされ、フェルメール作品では珍しく人工灯による光で部屋が照らされています。 

 

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また2人の女性の光の当たり方にも違いがあります。

 

「立つ女」(左)では女性が窓に背を向けていて、女性の顔にはあまり光が当たっていません。

夕方なのか画面も全体的に薄暗く、静かに何かが終わり夜になってしまうような、さびしい雰囲気があります。

構図も複雑で見ていると不安な気持ちになってきます。

 

対して「座る女」の方は人工灯ではありますが、人物を中心に光が当たり屋内独特の落ち着いてリラックスできるような印象を受けます。

構図はややうるさいですが、フェルメールが得意とした青と黄色のコントラストによって全体的な統一感が保たれています。

 

このように「光」を軸として2つの作品には違いを見ることができます。

 

 

まとめ

以上 「ヴァージナルの前に座る女」を鑑賞する上でのポイントをまとめると

①ふんだんに使用された「フェルメール・ブルー」
②一つの絵で音楽の二面性を表現
③「光」を軸に対になっている絵

になります。

 

 一見静かに見える絵ですが、調べていくとたくさんの秘密が隠されていることが分かります。

フェルメールの作品は「光」に注目することで何かが見えてくるかもしれません。

 

 

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