オススメ度:★★★★★
なかなか本を読んで涙が出るということはありませんが、この本は読むたびに涙腺が緩んでしまいます。
泣けるといっても、悲しいから泣いてしまうというわけではありません。優しさに触れて自然と涙がでるような、そんな感覚になる本です。
あらすじ
主人公のまいは、中学へ上がって少し経った頃思春期独特の人間関係に悩み、学校へいけなくなっていた。そんな状況でまいは1ヶ月ほどを"西の魔女"のもとで過ごすことになる。
西の魔女とは母方でイギリス人のおばあちゃんのこと。おじいちゃんが死んでからは田舎の家で一人で暮らしている。
まいはおばあちゃんの家で洗濯機を使わず洋服を洗ったり、裏山で取ったベリーでジャムを作るなど田舎で牧歌的な生活を送っていく。
そしてこの生活のなかで、まいは魔女から"魔女の手ほどき"をうけるようになる。
魔女になるのに、いちばん大切なのは「自分で決める力」だという。
まいは魔女との生活を通して、少しづつ成長していく。
感想:成長と自尊心
この本の重点は主人公であるまいが「自分で決める」ということで精神的に自立していくということでありますが、この成長の背景として自尊心が大きく関わっているのだと思いました。
すなわち、魔女に肯定され続けることでまいは自尊心を獲得し「自分で決める」ことができるようになったのです。
おばあちゃんの家に来る前、まいはお母さんと二人暮らし(お父さんは単身赴任)という家庭で過ごしていました。
このような家庭環境から、まいにとっていちばん身近な大人はお母さんだったと考えられます。
子供にとっての幸せの一つは身近な大人に認められることです。自尊心を獲得する以前の子供は大人に認められることを自己の拠り所としています。
物語の序盤、まいはお母さんが単身赴任先のお父さんと電話で登校拒否をおこしたまいについて話しているのを聞いてしまいます。お母さんの口から出てきた言葉は、どれもまいの自尊心を傷つけるものばかりでした。この電話を聞いてまいは、お母さんがもう自分に誇りを持てなくなったのだと気付いてしまったのです。
ママはもうわたしに誇りが持てなくなったのだ。まいにはそれがいちばん悲しかった。(p.16)
こうしてまいの自尊心は崩壊してしまうのでした。
自尊心を失ってしまったまいは、おばあちゃんにも受け入れられないのではないかと憂いていました。
しかしおばあちゃんの口から出てきたのは全く逆の、予想だにしない言葉でした。
「まいと一緒に暮らせるのは喜びです。私はいつでもまいのような子が生まれてきてくれたことを感謝していましたから」(p.22)
まいを全肯定してくれるおばあちゃんの元で、まいは自尊心はを取り戻していきます。こうして自尊心を取り戻したからこそ、まいは「自分で決める」ことができるようになっていったのです。
子供の成長を考える上で与えるものばかりが注目されてしまいますが、その前提となる環境に関する議論が欠落していることがよくあります。
花にどんなに水や栄養をやろうとも、土がいいものでなければ与えたものもいき渡りません。
子供の教育や成長を促すためにはその子にいちばん何が足りていないのか、本人の立場に立って考えなければならないのです。