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【本の紹介】森健・日戸浩之『デジタル資本主義』【要約・書評】

オススメ度:★★★★★

デジタル技術が急速に進化する中で私たちの生活はどのように変わるのでしょうか。デジタル技術の発展によって移り変わる資本主義の流れを追いながら、その答えとなるかもしれない3つのシナリオがこの本の中で紹介されています。

 

この本をオススメしたい人

・経済に関心が高い社会人
・経済学部2・3年生

 

森健・日戸浩之『デジタル資本主義』

デジタル資本主義

デジタル資本主義

 

著者:森健

野村総合研究所 上級研究員。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)経済学修士。経済社会の多面的な分析を専門としている。

 

著者:日戸浩之

野村総合研究所 コンサルティング事業本部 上級コンサルタント。東京大学文学部卒。東京理科大学専任教員。専門はマーケティング戦略立案、生活者の意識・行動分析など。

 

 

資本主義の定義

資本主義の三段階(p.37
①商業資本主義…差異の発見
②産業資本主義…差異の活用・創出
③デジタル資本主義…デジタル技術によって、差異を発見・活用・創出
 
この本の中では資本主義を「差異の発見・活用・創出を通じて利潤を獲得し、資本の永続的な蓄積を追求するシステム」と定義しています。資本主義は価格差を利用した遠隔地貿易から始まり(商業資本主義)、産業革命を経て産業資本主義へと発展してきました。
 
デジタル資本主義はデジタル技術抜きでは実現できなかった差異の発見や活用・創出を通して利潤を獲得していきます。
 
 

デジタル技術の影響

デジタル資本主義の3つのフェーズ(p.157)

①価格の差異を発見し、利潤を得る(例:価格.com)
②コストを下げ、消費者余剰を拡大する
③支払意思額と価格を高める
 
これまでのデジタル化は生産者余剰を圧迫し、消費者余剰を拡大する形で経済に影響を与えてきました。
 
デジタル資本主義の第1フェーズでは今まで見つけることのできなかった価格の差異を発見することで、価格の低下をもたらしました。次の第2フェーズではデジタル技術によって限界費用を低下させ、生産者余剰を拡大しました。
 
今後の展望として経済が先細りにならないよう支払意志額を押し上げることで総余剰が拡大されることが期待されています。
 
*消費者余剰・生産者余剰とは

消費者余剰とは支払意志額(消費者がある商品に対し支払ってもよいと考える価格)から実際の価格を引いたもので、消費者の「お買い得感」だと言えます。一方生産者余剰とは実際の価格からコストを引いたものになります。またこれら2つを合わせたものを総余剰といいます。

GDPは生産者余剰は計上されますが、消費者余剰は含まれないためしばしばGDPの変化と生活の質の変化にギャップが生まれることがあります。

 

 

交換様式の分類

交換面からみた社会構成体(p.179)

  不平等 平等
拘束 B 国家
(略取と再分配:支配と保護)
A 共同体
(互酬:贈与と返礼)
自由 C 資本
(商品交換:貨幣と商品)
D デジタル・コモンズ
(シェアリング)

 

この表は交換面から見た社会構成体と交換様式の分類です。

支配的な交換様式は世界史が発展するにつれA→B→Cと移り変わってきました。資本主義が領域Cを生み出したように、デジタル技術は領域Dを生み出そうとしています。代表的な例であるシェアリング・エコノミーはCとDにまたがる仕組みになります。金銭の発生方法や個人に認められて裁量の度合いによって領域内の位置が変わります。

 

*コモンズとは

ここでのコモンズとは、原始社会で行われていたコミュニティ成員による自主管理方式によって運営されている財・サービスを指します。デジタル・プラットフォームの登場によってデジタル・コモンズが誕生しました。

 

 

技術文化

3つの技術文化(p.209)

①モデルA(欧米):二重の人間非依存性 例)フォーク
②モデルB(日本):二重の人間依存性 例)箸
③モデルC(アフリカ):依存の中の働きかけ 例)手づかみ

 

文化が違えば道具や技術に対する扱いも異なります。欧米では日本とは対照的に能力的にも労力的にも人間に依存しない「道具の脱人間化」が行われてきました。アフリカでは人間を道具として扱う、あるいは道具を人間の延長として扱ってきました。

 

デジタル技術の活用についても、このモデルを適用して考えることが出来る。モデルAではロボットを人間の代わりになるものとして扱います(人間代替型)。モデルBではデジタル技術を使い手の能力に依存しながら人間を補助する人間補完型として扱います。最後のモデルCは人間の能力を拡張するもの(人間のデジタル化)として人間強化型が考えられます。

 

 

資本主義のゆくえ

今後の資本主義の3つのシナリオ(p.217)

①デジタルが領域Cを強化する「純粋デジタル資本主義」
②デジタルが領域C・Dの両方を強化する「市民資本主義」
③デジタルが領域Dを強化する「ポスト資本主義」(思考実験的)
 
この本では3つの今後の資本主義の3つのシナリオが示されています。
①の「純粋デジタル資本主義」はモデルAに基いてつくられています。デジタル技術は効率的に資本を蓄積するために使われ、その代償として労働が機械に代替される中で多くの失業者が生まれます。この本では対応策としてベーシックインカムが採用されると考えています。
②「市民資本主義」ではシェアリング・エコノミーのプラットフォームが多様化し、各人が自分の資本(スキルや未稼働資産を含む)をより活用できるようになります。
最後の③「ポスト資本主義」はデジタル技術によって限界費用がゼロになり、誰もが必要な物の大半を無料に手に入れられるとしています。

 

 

感想

ものごとを段階や分類によって考察していくのが自分にとても合っていて読みやすかったです。

上に紹介したところ以外で面白いなと思ったのは“参加者の「自由」を尊重している点で資本主義と民主主義は共通している”“他方、両者の相違点は資本主義が参加者の「不平等」を生み出すのに対して、民主主義が参加者の「平等」を大前提としていることであり、この点で両者は衝突する”(p.45)というところです。

普段資本主義と民主主義の中で普通に暮らしていると境目が見えにくくなり、これらを分けて考えるのが難しくなります。この本はデジタル資本主義を理解するだけでなく、物事の考え方を学ぶ上でも役に立ちました。