本と絵画とリベラルアーツ

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【NHKで話題】マルクス・ガブリエル『未来への大分岐』【感想・まとめ】

オススメ度:★★★★☆ 

 

目覚ましいスピードで技術革新・経済成長を遂げる世界。この世界はこれからどのような方向へ向かうのでしょうか。資本主義や民主主義はこのままのかたちでこれからも続くのでしょうか。

 

マルクス・ガブリエル『未来への大分岐』

著者:マルクス・ガブリエル(1980~)

哲学者。ボン大学教授。既存の哲学を乗り越える「新しい実在論」を提唱し注目を集めている。一般向けの哲学書も多く手掛け、著書に『なぜ世界は存在しないのか』『「私」は脳ではない』などがある。

 

 

概要

NHK『欲望の資本主義』シリーズで話題の哲学者マルクス・ガブリエルを筆頭に、3人の学者による独自の社会観が語られている。

 

聞き手はカール・マルクスの研究をおこない経済思想を専門とする日本人教授。対談形式ではあるが聞き手に十分な見識があり、中身の詰まった内容となっている。

対談形式によって『時計の針が巻き戻るとき』よりも丁寧に話が進められており、「新実存主義とは何か」をざっくりとつかむのに向いている。 

『未来への大分岐』というタイトルどおり全体的に政治・経済の話が中心となっている。この本をストレスなく読むうえで、政治・経済、時事の最低限の知識はほしいところ。

 

 

相対主義批判

多様性の広がりとともに、相対主義も支持を伸ばしています。相対主義とは普遍的な概念など存在せず、人はそれぞれ異なる考え方を持ち、そのすべてを否定できないという考え方です。平たく言えば、みんな違ってみんな正解ということです。

 

ガブリエルは相対主義者を痛烈に批判しています。

 

 相対主義者は、違う場所の違う文化的条件のもとで生きている人のことを、自分とは全然異なった他者としてみなすようになる。究極的には、他者のことを人間ではない存在として、考えることになるのです。(p.152)

 

倫理的・政治的意味における価値(いわゆる人権)はすべてわたしたちが「人間であること」に基づいています。他者の非人間化は、その価値の否定に帰着します。

人を人として見なくなった人間は、他者を差別・排除・暴力することをいとわなくなってしまいます。すなわち、相対主義は普遍的価値を否定してしまうのです。

 

数学者の藤原正彦も著書のなかで相対主義を否定するような主張をしています。以下は『国家の品格』からの引用です。

 

美的感受性があれば、戦争がすべてを醜悪にしてしまうことを知っていますから、どんな理由があろうともためらいます。故郷を懐かしみ涙を流すようなひとは、他国の人々の同じ想いをもよく理解できますから、戦争を始めることをためらいます。(p.156)

 

相手も自分と同じ人間であることがわかっている、すなわち相手と自分は「同じ」であるという考え方は、相手に対する暴力を思いとどまらせます。これは相対主義とはまったく反対の考え方です。

 

注意したいのは、ガブリエルはすべてが同質であると主張しているわけではないということです。

ガブリエルの相対主義批判というのは、相対主義で考えるとすべての思想を等しく扱わなくてはならなくなる。すべての思想を等しく扱うということは、ヒトラーをも肯定することになる。しかしヒトラーは間違っている。この矛盾より相対主義は成り立たない、というの彼の主張です。

 

まとめると、相対主義は人を人として見なくなる危険性をはらんでいる。他者の非人間化は差別・排除・暴力を生む。これらをなくしていくためには「相手を人間としてみる」ことが重要なのです。