オススメ度:★★★★☆
自分が自分じゃない、あるいは自分が完全でない感じることありますよね。この欠けた気持ちを埋めようとするのが恋愛なのでしょうか。
あらすじ
「つまりね、記号と象徴のちがいってなあに?」(p.44)
22歳の春にすみれは生まれて初めて恋をした。広大な平原をまっすぐ突き進む竜巻のような激しい恋だった。そしてぼくもまた、初めからすみれに恋をしていた。
すみれが恋したのはミュウという17歳年上の既婚女性だった。性欲さえ知らなかったすみれだったが、ミュウと出会いともに行動をしていく中で彼女の中のいろいろなものが開花していく。
8月のある日、すみれはミュウの仕事に同行しギリシアの小島に訪れていた。しかし何日か経ったある朝、すみれは姿を消してしまう。まるでこの世界からすっかりいなくなってしまったように。ぼくも日本から飛んでいき一生懸命探すが気配すら見つからない。すみれはどこへ消えていまったのか。
心の内面と外面、あちらの世界とこちらの世界の境界線が溶けてしまうような不思議なラブストーリー。
感想
なんとなく村上春樹の恋愛小説が読みたくなって、積読の中から引っ張り出してきました。はじめは期待していた恋愛小説とはずれていて失敗したかなと心配しましたが、読んでいるうちに村上春樹の小さな世界に引き込まれていきました。
舞台は普通のこの世界であるはずなのに、小説で展開される世界は閉じられていて、現実世界からは独立した世界であるかのような印象を受けます。どこかのサラリーマンがいつもと同じように出勤し働き疲弊している横で、村上春樹の全く時間の進み方の違う空間があるようで、読んでいるとふんわりと浮いているような気分になってきます。私はこの感覚がたまらなく好きになりました。
"元気だよ、春先のモルダウ川みたいに"(p.48)や"あなたはときどきものすごくゆさしくなれるのね、クリスマスと夏休みと生まれたての仔犬が一緒になったみたいに"(p.80)のような村上春樹独特の表現もとても気に入りました。