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【ゴールドマン・サックス】清水大吾『資本主義の中心で、資本主義を変える』

オススメ度:★★☆☆☆

 

清水大吾『資本主義の中心で、資本主義を変える』

 本書のエッセンス
・GSの中で持続可能な社会を目指して闘った男の話
・具体的には政策保有株式解消を目指していた
・「資本主義」の分析が不十分に感じられた

 

感想

世界最強の投資銀行とも呼ばれるゴールドマン・サックス出身の筆者が、資本主義に疑問を感じ、変革のため獅子奮迅のごとく闘い続けた話。

 

筆者の現在の資本主義に対する課題感とそれを変えたいという熱量は感じられたが、資本主義の解説の部分に弱さを感じた。

もちろん本書の目的が資本主義の解説ではなく、同じく課題感をもっている人たちに火をつける点に重きを置かれていることは理解できるが、それを踏まえた上でも資本主義の解説が空疎で、その部分の納得感がないがためにメインの主張もあまり刺さらなかった。

 

本書における資本主義の解説の薄さは大きく2点あると思う。

一つはシンプルな資本主義への解像度の低さである。

筆者は資本主義の本質を「所有の自由×自由経済」だとし、後発的な、歴史的にトッピングされた要素として①成長の目的化②会社の神聖化③時間軸の短期化を挙げている。

例えばこのうち①成長の目的化について、所有の自由と自由経済のもとで生じた今日競争の副産物として成長が、次第に手段から目的に転化したとし、以下のように述べている。

資本主義そのものではなく、「成長の目的化」が問題なのだ。(p.50)

 

しかし実際には所有の自由と自由経済のもとでは遅かれ早かれ金融が生まれ、金融は利息を生み、利息は企業に成長を強いることになる。すなわち、資本主義において「成長の目的化」は必然的に起きるものであるのだから、資本主義から「成長の目的化」だけを抜き出し捨象することはできないはずだ。

 

二つ目は筆者の思い描く理想的な社会に矛盾があることだ。筆者は現在の資本主義と中途半端になっている日本経済についてどちらも批判したうえで、一方それぞれにも良い点があることに言及している。そしてそれらのいいとこどりした社会が理想だと述べている。

欧米的な価値観をそのまま受け入れるのではなく、日本的な良さを残しながら有用な部分だけを取り入れるというしたたかさが必要だ。(p.146)

 

しかし社会の良さと悪さは、往々にして同じ構造から生まれているものである。

欧米人の説明責任と裁判で勝てば正しいという思想は同じ先鋭化した資本主義から来ているものであるし、日本のおおらかさとなれ合いは同じ中途半端な資本主義からきている。

それならば異なる構造から生まれる良し悪しの良いところ取りをすることはできないのではないだろうか。

 

筆者の名誉のために書き添えておくと、おそらく筆者はすこぶる頭がよく実際には資本主義についてより厳密な洞察を持っている。それを大衆向けの本として内容をデフォルメした結果がこれなのだと推察される。したがって本ブログで主張している資本主義への解像度の低さとは、筆者本人の理解度の問題ではなく、あくまで紙面上の話である点をご留意いただきたい。

 

***

 

本書の本題からは少しずれるが、筆者の文章を読んで内部監査部門に興味をもったので該当箇所を備忘として記載しておく。

優れた企業文化の醸成の文脈で、筆者が内部監査部門をもっと評価すべきだという話がでてくる。

内部監査というのは、企業の不正防止や業務効率化のサポートを目的とした部門だ。裏方中の裏方と思われている節もあるが、ビジネスを誰よりも理解したうえで、営業部門が気づいていない落とし穴を事前に見つけて対策を講じてくれる。(p.177)

これまで関心なかったが、業務コンサルに近く面白い業務なのではないかと感じた。

 

資本主義分析という面では物足りなさを感じたが、全体を通してやはり一流企業の第一線で活躍する人間の熱量の高さとバイタリティを感じさせられた。思想はどうあれ、こういった熱の感じられる人間が私は好きなんだなと改めて思った。