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『コンビニ人間』村田沙耶香【感想・あらすじ】

オススメ度:★★★★☆

「本当に、ここは変わらないわねえ。」

(p.70)

 

村田沙耶香『コンビニ人間』

 

あらすじ

 主人公は36歳未婚、コンビニバイト歴18年の古倉恵子という女性。彼女は情や「普通」といったものが理解できず、幼少期から社会に馴染むことができなかった。 そんな彼女が唯一「世界の部品」となることができたのがコンビニ店員であった。

ある日、安寧の場所であったはずのコンビニに白羽という35歳の男がバイトとして入ってきた。サボり癖があり、あからさまに「コンビニ店員」を見下す白羽は婚活目的でコンビニバイトを始めたという。白羽は古倉を「ムラのお荷物」だとこき下ろすが、ふたりは奇妙な利害の一致から同棲をはじめることなる…

 

感想

この小説を読むと、「自分」というものがいかに曖昧なものなのかを思い知らされます。普段私たちが生きているときには、自分が変わっていっているということになかなか気が付きません。ロルフ・ドベリは『Think clearly』の中で

ほとんどの人は、空港や駅や町と違って、自分の性格がこれから変わるとは思っていない、あるいは変わるとしてもごくわずかだと思っている。

・・・(中略)・・・

実際には、私たちはこれからも、ほぼこれまでと同じように代わり続ける。(『Think clearly』p.170)

 と、人の性格が不定であると語っています。

 

この小説の主人公である古倉は「自分らしさ」というものを持っていないので、その性格や口調、仕草までもが他人のコピーにすぎません。

今の「私」を形成しているのはほとんど私のそばにいる人たちだ。三割は泉さん、三割は菅原さん、二割は店長、残りは半年前に辞めた佐々木さんや一年前までリーダーだった岡崎くんのような、過去のほかの人たちから吸収したもので構成されている。(p.26)

ここまで極端でないにせよ、振り返ってみると私たちの性格というのはその大半が周囲の人間から受け継いだものだとわかります。私たちは常に周囲の人間・環境・社会によって、自分のうちのほとんどを規定されているのです。

もし今自分が「なりたい自分」でないと感じるならば、自分を顧みる前に自分の周りの人間をよくよく観察してみることが重要になるのではないでしょうか。