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【本の紹介】中野剛志『経済はナショナリズムで動く』 【要約・感想】

オススメ度:★★★★★★

グローバル化によって経済における国家の役割は減退しているとしばしば考えられているが、それは間違いである。実際には世界経済はナショナリズムによって動かされている。

私が政治経済を考える上で最も重要な本となっています。

 

この本をオススメしたい人

・全ビジネスパーソン
・全経済学部生

 

経済ナショナリズムとは

経済ナショナリズムとは、国民国家において自国の国力の増大を目的とする考え方である。

経済ナショナリズムでは、国益を増大させる目的のために保守・自由主義問わず政策を選択する。1960年代に独立した多くの発展途上国では社会主義体制をとったが、これは旧宗主国から独立するというナショナリズムに基づいている。

 

世界経済はナショナリズムで動いてきた

 最近のナショナリズムの台頭は、90年代以降のグローバリズムの反動とみられることが多い。しかし、実際にはグローバリズム自体がアメリカの経済ナショナリズム運動そのものであり、それに反応して左傾化したヨーロッパ各国の行動もまた自国の国益を守るための経済ナショナリズムであるといえる。

 

 

経済ナショナリズムに対する誤解

経済ナショナリズムを考える上でしばしば2つの誤解がなされている。

 

一つ目は「ネイション(国民)」と「ステイト(国家)」の混同である。

「ネイション」とは、歴史的記憶、公的文化、言語、領土、伝統といったものを共有することによって統合されている一種の共同体である。一方で、「ネイション」とは政治的な制度あるいは組織である。(p.47)

経済ナショナリズムの目的は国家ではなく国民の利益の追求である。国家が国民のための存在だと考えるために、国民は国家の権威を受け入れる。

 

2つ目の誤解は経済ナショナリズムを保護貿易と産業政策を主張し、自由貿易を否定するものだと考えている点である。実際には、経済ナショナリストは主義を問わず国力を増大させるあらゆる政策を採用する可能性がある。

経済ナショナリズムはしばしば考えられているような利己的・排斥的なものであるとは限らず、国益にかなうならば国際協調の立場をとることもある。

 

 

国家・市民社会の中に経済がある

個人の誕生

近代以前には自律した個人も法も存在しなかった。国家と言う土台によって法が誕生し、自由で独立した近代的個人は、近代国家に法的に定義されることで誕生した。

 

市民社会

独立した個人は封建的共同体から解放された。人間が法を守り道徳的に行動するためには、何かしらの共同体や社会集団に所属している必要がある。近代社会における共同体や社会集団を「中間組織」と呼ぶ。そしてこの「中間組織」を豊かに含んだ社会を「市民社会」という。

国家 - 中間組織 - 個人の関係が保たれることによって、民主主義は穏健に保たれる。また国家 - 個人のように結びついたときに全体主義が生まれる。

 

市場の創出

市場は国家によって生み出された。国家によって生み出された近代的個人は労働者としての役割を果たし、それ以外にも通貨・度量衡の統一、法整備、教育制度などの面で国内市場を創出した。さらに軍事力の保持により国内市場を守り、貿易においても国家は大きな役割を果たした。

 

経済は社会に内包されている

経済活動には契約が信用できるという前提が必要となる。この前提の土台となる関係をデュルケイムの言葉で「非契約的関係」という。「非契約的関係」の背景には社会慣習や文化がある。「非契約的関係」であるためには個人が道徳的でなくてはならない。すなわち経済は市民社会に「埋め込まれている」とき、健全でいられる。

 

政治とナショナリズム

国民国家

人はナショナル・アイデンティティを持っている。ナショナル・アイデンティティはネイションに対する共同体意識であり、目には見えないでこそ、逃れることの出来ない運命のようなものである。

国家はナショナル・アイデンティティを可視化したものであるナショナル・シンボル(日本ならば天皇、アメリカならば独立・建国の歴史)を持って国民を統治する。こうして統治された国家を国民国家と呼ぶ。

 

経済政策

近代民主国家はネイションによって支えられている。そのため国家は国民を意識した政策を取らざる得ない。ナショナリズムが誤った経済政策を採用することは往々にしてあるが、一方でネイションの一員である同胞や子孫のために必要な負担や犠牲を甘受することもある。

 

 

まとめ

・経済ナショナリズムの目的は国力の増大

・経済ナショナリズム ≠ 保守主義

・経済ナショナリストは国民国家を理想の国家形態とする

あらゆる経済政策はナショナリズムに基づいている

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感想

 この本は私が政治経済を考える上でもっとも重要な本の一冊となりました。経済発展の過程をゆがめられた理論ではなく、実際の歴史からとらえています。

例えば国家の誕生について、一般的に社会契約説が有力な説とされています。すなわち、個人が国家をつくったと考えられることが多いです。一方でこの本では国家が個人を生み出したと言う全く反対の立場をとっています。考えてみると近代以前の個人に国家をつくる力などあったのだろうか、という疑問が湧いてきます。そう考えているうちに国家による個人の規定の方が正しいように思えてきました。

またこの本で語られている「経済がナショナリズムによって動かされているという説」を含む他の説も現実に即しており、読んでいてすっと入ってくるものが多かったです。

この本を読んでからは新聞をニュースを思想面において理解しやすくなりました。この本の説が正しいかどうかは置いとくとしても、ぜひとも経済学部生やビジネスマンの方には読んでほしいと思い最高の★6を付けました。