個別指導の塾では生徒と講師の距離が近いため、しばしば雑談が行われる。一見雑談と聞くとサボっているようなイメージを受けてしまうかもしれないがそうではない。
適切に行われる雑談は授業をより豊かにし、巡り巡って生徒の学力上昇にも役立つ。
適切に行われる雑談はどういったことを目的として行われるのか、4つの面からまとめてみた。
信頼関係を構築する
宗教改革期の人文主義者エラスムスは、教育が成り立つための重要なポイントとは教師が生徒に好かれることだと主張している。
子どもはまず教師を好きになり、次にその教師が教える教科を好きになり、そして最終的に学問自体を好きになる。
今まで嫌いだった教科が、先生が変わったことで好きな教科に変わったというのはよく聞く話である。特に男子に比べ女子にはこの傾向が強い印象がある。
《大事なのは話を聞いてもらうこと》
指導していくうえで重要なのは生徒に話を聞いてもらうということである。
個別指導では教えた後のフィードバックが重要になってくる。このフィードバックがうまく機能するかどうかは、生徒とコミュニケーションがうまく取れているかにかかっている。
コミュニケーションは決して一方通行になってはならない。こちらが投げたボールをしっかり投げ返してもらわないことには指導は成り立たない。
しかし飼い犬と違って人間相手にボールを投げて取ってこいというのは通用しない。舐められたと感じれば二度と心の扉は開かなくなる。生徒はお客様である。
《まずは生徒の話を聞く》
生徒に限らず、だれかに話を聞いてもらいたいならばするべきことはまず話を聞くことである。生徒に話を聞く義務などない。人間話を聞いてくれない人の話など聞こうとは思えない。
話を聞いてもらうためには、まずはこちらから生徒の話に耳を傾けなくてはならない。
内容の大小は関係ない。
生徒の話は一見重要性が低く、それは今じゃないといけないのかと感じるものも多い。
しかしこれは講師側の勝手なレッテル張りに過ぎず、生徒からすればその時聞いてもらいたいことなのだからそれをくだらないものと一蹴されれば不快感を覚える。
一度この先生は話を聞いてくれない先生なのだと感じられてしまえば信頼関係はたちまち崩壊し、これを再築するのは大変困難な仕事になる。
たとえ些細な話であっても、生徒にとっては(意識しているかどうかは別として)重要なことである場合もあり、誰かに聞いてもらえるだけで何か一つ楽になる場合もある。
そうであるならばちょっとした話であっても聞くことは一概にコスパが悪いとは言えない。
状況によっては授業を進めなくてはいけないときもある。
そういう時は、「続きは一度後で聞くから一旦こっち進めようか」などと誘導し授業に集中してもらう必要がある。
ただこの方法を使う時に絶対に破ってはいけないのは、後で聞くと言った以上後でしっかり聞くことである。どこかタイミングを見つけて「そういえばさっき言ってた○○ってどうだったの??」と声をかけて聞く。
こちらからしっかり聞くことで相手はちゃんと自分の話を聞いて覚えていてくれたと感じ、好感度にもつながる。前に聞いた話を再度広げる手法は普段から有効である。
生徒の性格を知る
個別指導の醍醐味は一人一人にあった指導ができることである。そのためには当然ながら生徒の性格を知ることは不可欠である。
中には人懐っこくすぐに自己開示してくる生徒もいるが、多くはそうではない。生徒と講師という立場上完全なる対等ではないため、どうしてもどこか足元の高さに違いが出てしまう。特に学年が上がるにつれこの傾向は強くなる。
雑談からは生徒に関する多くの情報を得られる。入っている部活動や好きな教科、よく聞く音楽や他の習い事なんかは生徒を知る上で重要な手掛かりになる。
共通点が見つかれば親近感を持ってくれるいいきっかけになるし、意外な一面(おとなしそうに見える子が意外とアクティブなど)に気づけるかもしれない。
プライバシーに十分注意したうえで生徒との距離を縮めていきたい。
眠気覚まし
生徒の体調はまちまちで、たとえ普段やる気のある生徒でも疲れていたり食事のあとの授業だったりすると睡魔に襲われることがある。
こういったとき生徒にいくら起きろと言ったり、多少身体を揺さぶる程度ではほぼ無意味である。本人が起きなくてはならない状況だと理解していても、生理現象に抗うのは厳しいものがある。
本当に限界そうなときには一旦数分間寝かせてしまい覚醒するのを待つのも一つの手である。
ただ、眠そうではあるが一瞬で深い眠りに落ちるほどではないときには寝かせようとするのはかえって逆効果である。
こういった舟をこぎ出す前の段階においては、生徒に話しかけてあげるのが有効である。
論理的に話す力をつける
低学年の生徒のなかにはまだ会話力が不十分な子もいる。
そのような生徒には積極的に会話をすることによって日本語の底上げにつながる。
具体的には生徒が話してきた内容を掘り下げるように質問していく。「休みに○○を見てきた」と言われればそこまでどうやって行ったのか、どんなところがどうしてよかったかなどを聞いていく。
この様に話を進めることで生徒は考えながら話すようになり、日本語力の向上に役立つ。