本と絵画とリベラルアーツ

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【本の紹介】渋沢栄一『現代語訳 論語と算盤』

オススメ度:★★★★☆

「ソロバンは『論語』によってできている。だからこそ『論語』とソロバンは、とてもかけ離れているように見えて、実はとても近いものである」(p.13)

渋沢栄一『現代語訳 論語と算盤』

 

感想・まとめ

日本経済の父である渋沢栄一による、ビジネスマンの生き方が詰まった一冊。

ビジネスマンとして社会で成功を収めるためには、損得勘定だけではならない。成功には正しき倫理観が不可欠である。その倫理観のメタファーとして、『論語』を持ち出している。

 

逆境について

渋沢によれば、逆境は2種類に分別することができるという

①人にはどうしようもない逆境
②人がつくった逆境
①と②は換言すれば世の中の定数と変数ともいえる。
①人にはどうしようもない逆境に対し、万能な特効薬はないという。ただ唯一の策は「自己の本分」であると覚悟を決めることである。「人事を尽くして天命を待つ」とある種割り切ることとで心の平静を保つことができる。
 
一方の②人がつくった逆境については以下のように語っている。
これはほとんど自分がやったことの結果なので、とにかく自分を反省して悪い点を改めるしかない。世の中のことは、自分次第なことも多く、自分から「ああしたい、こうしたい」と本気で頑張れば、だいたいはその思い通りになるものである。(p.36)
上記よりビジネスマンの気質として自責思考がいかに重要であるかが分かる。

 

仕事に趣味を持て

仕事をするさい、単に自分の役割分担を決まりきった形でこなすだけなら、それは俗にいう「お決まり通り」。ただ命令に従って処理するだけにすぎない。しかし、ここで「趣味」をもって取り組んでいったとしよう。そうすれば、自分からやる気をもって、

「この仕事は、こうしたい。ああしたい」

「こうやって見たい」

「こうなったら、これをこうすれば、こうなるだろう」

というように、理想や思いを付け加えて実行していくに違いない。それが、初めて「趣味」を持ったということなのだ。わたしは「趣味」の意味はその辺にあるのではないかと理解している。(p.106)

ここでの「趣味」とは、目的意識と言い換えられる。

ただ単に与えられた仕事を紋切型にこなすだけでは仕事から生きがいは得られない。自分でその仕事の意味を見出し、創意工夫をもってそれに前のめりに取り組むことで初めて仕事が面白くなる。

「理解することは、愛好することの深さに及ばない。愛好することは、楽しむ境地の深さに及ばない」(p.108)

楽しんで取り組んだ者だけが、だれも見たことのない景色にたどり着ける。

 

最後に<十の格言>より特に気に入った言葉を紹介する。

声は、どんなに小さくても聞こえてしまう。行いは、隠していてもやがて明らかになってしまう。『説苑』(p.222)

S・スマイルズの『自助論』にも同様の言葉があった。弱ったときにこの言葉を思い出して頑張りたい。

 

 

【読書メモ】吉本隆明『共同幻想論』【国家はいかにして生まれるか】

オススメ度:★★★★☆

その統一する視点は何かといいますと、すべて基本的には幻想領域であるということだと思うんです。(p.27)

吉本隆明『共同幻想論』

 

 本書のエッセンス
・上部構造≒幻想領域=共同幻想+対幻想+自己幻想
・兄弟の<対幻想>が<共同幻想>に同致するとき共同体は国家となる

感想

正直2割も理解できていないが、将来の自分に向けての伝言としてメモを残す。

この本がなぜ難解かと言えば、文章構成が論点を軸に展開されていないためだと考えられる。現代の一般的な文章である主張・具体・補論・再主張のような構成をとっておらず、複数の複雑なテーマに対し全体が綜合して説明する形で記述されている。

したがって初見では各章のどことどこがどのように結合していくのかが見えないというのがまず難解である一点目の理由。

そしてもう一点が精神が分離(いわゆる現代の統合失調症)したような人物と自己・共同幻想との関係がいまいちつかめなかった。この点については現代とこの本が書かれた当時との統合失調症への見方に違いがあり過ぎるために、用語自体をうまく理解できなかったためだと思われる。

 

『共同幻想論』を読むにあたりとっかり無しは厳しいと判断し『100de名著 共同幻想論』を先んじて読むことととした。

こちらの本によれば吉本隆明は生涯を通じて以下の3つの課題に取り組んでいたという。

①敗戦による価値観の崩壊から復活
②信仰はどこからくるのか
③関係の絶対性

敗戦を通じて自己と国家の価値観の倒錯を目の当たりにした吉本は、「敗戦まで信じられていた価値観がなぜ信じられていたか」というラディカルな課題と直面する。そうした本源的問いの中から、この『共同幻想論』は生まれた。

 

国家の起源の思索から下部構造を捨象して、関係性(対幻想 - 共同幻想)から論理立てていく過程は目新しく映りとても興味深かった。ただただ自分の力不足がもどかしい。

 

各章の概要メモ

〇禁制論

閉鎖的な共同体において、現実と幻想の区別がつかなくなったところに禁制(タブー)が生じる。

 

〇憑人論

入眠幻覚特性を持つ人物によって<共同幻想>の物語は伝承されてきた。

 

〇巫覡論

自身と他者の関係を考えるとき(すなわち相互規定性を想定するとき)、自身を相対化し自信を他者とみている。ちょうど自信と他者という2点を上から俯瞰しているのと同じ。

 

〇巫女論

地域社会の<共同幻想>を<対幻想>としてデフォルメしたものが巫女である。

最初の拘束対象が同性=母である女性は、その逃亡先として<自己幻想>または<共同幻想>を選ぶ。<自己幻想>と<共同幻想>が本質的に一致する女性は共同性に対し宗教的権威を持つ。

 

〇他界論

自分の死にしろ他人の死にしろ、死を体験することはできない。死は常に心の問題であり、その問題のありかたは<共同幻想>による。死の認識は、<共同幻想>による<自己幻想>への浸蝕をもってなされる。

 

〇祭儀論

<自己幻想>は<共同幻想>に逆立する。

 

〇母制論

擬似性的関係である<兄弟>の対幻想が共同幻想と同致するとき、集団は国家となる。

 

〇対幻想論

<性>的な行為が対幻想を生み出した時、人間の男女とった単なる<性>が分化し、夫婦や親子、兄弟姉妹といった家族としての系列を獲得する。

 

〇罪責論

<共同幻想>にそむくかどうかが個体の<倫理>を決定する。

 

〇規範論

経済社会的構成の以降、すなわち<共同幻想>の以降時において、前時代の<共同幻想>はたんなる<習俗>へと追いやられ、新たな<共同幻想>が生み出される。すなわち時代間における<共同幻想>は連続ではなく飛躍する。

 

○起源論

国家の起源は血縁的共同性から脱却(近親相姦の禁止)を契機とみることができる。邪馬台国については国家として進んだ段階(法や統治の整備されている)である。

 

 

【給料の期待値】北野唯我『転職の思考法』

オススメ度:★★★★☆

20代は専門性、30代以降は経験をとれ。(p.38)

北野唯我『転職の思考法』

 本書のエッセンス
・給料の期待値=人的資本 × 技術資産 × 業界の生産性
・20代は専門性、30代以降は経験をとれ
・転職というオプションがキャリアを強くする

 

サラリーマンになり1年が過ぎた。

何も分からない中、がむしゃらにずっと頑張ってきたが、ようやく周りのことが見えて来た気がする。

 

右往左往と考えながら、次に見つけるべきは「強いキャリア」だと考えるようになった。

「強いキャリア」を考える中でいくつかの本を読み、その中で森岡毅氏の『苦しかったときの話をしようか』に出会った。

この本の詳細は以下に譲るが、読む中で衝撃的だったが転職をオプションに加えるというキャリア観である。

www.artbook2020.com

これは「転職をしろ」とは少し異なる。

転職をすることが目的なのではなく、今の会社を続けることも転職することも並列されたオプションとして扱うことを推奨している。

無意識に今の会社で働くことを前提にしていた自分にとって、これは衝撃的かつ自省させられるメッセージであった。

 

転職したことがない自分が転職するイメージをつける目的で、この本を手に取った。

 

市場価値の考え方

今の会社に留まることと転職することを同列に扱うためには、両方のオプションをとった際の影響と結果を正当に評価できることが前提となる。社内に留まり続けた場合のイメージや影響は付きやすい。

一方で転職したことのない人間や一つの会社に長く居続けた人間取って、今の自分がどれほど市場価値があるか図ることは難しい。

その会社では「できる人」と評価されていても、一歩会社の外に出れば「市場価値のない人」になることは往々にしてある。

このような事態に陥らないためには、会社のなかでの評価がすべてでないことを認識し、市場での評価がどのように行われていくのか、評価の変数は何であるかを知る必要がある。

 

市場価値の方程式

ずばり、市場価値=給料の期待値は以下の式で決まる。

給料の期待値 = 人的資本 × 技術資産 × 業界の生産性(/人)

人的資本とはコネクションのことである。ビジネスは意外と「貸し借り」で動いており、若手のうちはあまり意識されないが、40代になると重要なファクターになる。

人的資本は急には拵えられないため、早いうちから意識して動いておく必要がある。

 

20代は専門性、30代以降は経験をとれ。

次の技術資本は「専門性」と「経験」から成る

「専門性」とは職種に結びつく能力で、営業や経理、エンジニアなどそれぞれの職種で存在する、垂直的なスキルである。ハードスキルとも呼ばれる。

一方の「経験」は職種と結びつかない能力で、マネジメント能力などがこれにあたる。ソフトスキルがこれに近い。

 

技術資本において、キャリアを積んでいく上では時期と順番がポイントになってくる。

20代は専門性、30代以降は経験をとれ。(p.38)

一般的には年齢が上がれば上がるほど転職でも専門性が求められるようになることから、30代こそ専門性が重要なように思われるが、実はそうではないという。

 

なぜなら「経験」はだれにでも回ってくるものではないからだ。

リーダーとしての経験、新規事業の経験は当然社内のエースと呼ばれる人に集中する。つまり「専門性」がある人間にだけ、「経験」がめぐってくる。

したがって、20代で「専門性」を身に着けたうえで、30代で「経験」を回してもらえる戦略がベストになるのだ。

 

最後に、給料というのは畢竟業界で決まる。これはその人間が優秀かポンコツかといったこと以上にダイレクトに影響してくる。

こういった意味でも、斜陽産業や業界に身を置くのは止めた方がいいだろう。

 

転職実践編

ここからは実際に転職を実践した際に抑えておくポイントを列挙していく。

私はこれまで転職したことがないので、今後転職することに決めた際の備忘として残しておく。

 

会社選びの3つの基準
①マーケットバリュー
②働きやすさ
③活躍の可能性

上記の3ポイントを言い換えれば、将来性があり自分が活躍できることが重要であるということになる。①のマーケットバリューとは、簡単に言えば"イケてる"社員が集まっているかという部分にあたる。転職の議論では①②が対立として語られることが多いが、実際には①②は長期的には両立する。

②③を転職活動の中で見極めるためには、面接にあたって人事に直接伺うのがよい。そのうえで自分がその会社の中核事業においてバリューを出せそうか(スキルややりたいこととマッチしているか)、転職の場合には中途社員が活躍できる土壌があるかを確認する。

また本書では加えていいベンチャー企業の見分け方についても言及している(p114)。

 

いいエージェントの5か条
①懸念点含めFBくれる
②キャリアを軸にアドバイスしてくれる
③回答期限や年収の交渉ができる
④粘り強く新たな案件を探してくれる
⑤太いパイプを持っている

エージェントは就職を決める点にインセンティブがあるため、利害関係の構造として100%就活者の味方になりえない。

それでもエージェントにより良し悪しはあり、それを見分ける基準として上記の5か条は役に立つ。

 

終身雇用が崩壊し転職が当たり前になった今、受け身の転職ではなく攻めの転職がキャリアを成功に導くカギとなる。これからもサラリーマンとして生きていく人にとって必読だと思った。

 

 

【本の紹介】宇田川元一『他者と働く』

オススメ度:★★★★☆

対話とは、権限や立場と関係なく誰にでも、自分の中に相手を見出すこと、相手の中に自分を見出すことで、双方向にお互いを受け入れ合っていくことを意味します。(p.22)

 

宇田川元一『他者と働く』

 

 本書のエッセンス
・対話は適応的問題(関係の中で生じる問題)に対し有効
・対話とは相手の立場に立ち自分の視点を変えることで関係性を構築すること
・私とあなたは違う。違うことを認めた上で相手の立場に立つことが大切

適応的問題と対話

本書における問いは、既存の枠組みで解決ができない<適応的問題>に対しどう向き合えばよいかである。そしてその答えが<対話>となっている。

 

ハーバード・ケネディ・スクールのロナルド・ハイフェッツによれば、問題は以下の2つに分類することができるという。

①技術的問題
②適応的問題

①技術的問題とは既存の枠組みで解決することのできる問題を指している。のどが渇いたという問題は、水を飲むという既存の枠組み(知識)によって解決できるため、技術的問題に分類される。技術的問題が解決できない時には、知識を付けることで解決ができる。

一方の②適応的問題は人と人/組織と組織との関係の中で生じる複雑な問題であり、いくら知識をつけても解決するものではない。

 

適応的問題を技術的に解決しようとする際、既存の枠組み(それぞれの立場から物事を見ている)で考えているため、問題の立て方自体が制約される。

適応的問題の解決には新たな関係を構築する「対話」が必要(相手の立場に立つことで、見方を変えていく)。相手を変えるのではなく、自分の視点を変える。

相手の中に自分を見出し、自分の中に相手を見出すことで、マルティン・ブーバーの「私とそれ」という道具的関係から、「私とあなた」という固有の関係(それは可換だがあなたは不可換)を構築できる。(岸政彦の他者の合理性に近い概念)

 

ここでの視点とは、その問題特有の点としての視点ではなく、時間的広がりを持った広義の概念である。すなわち相手のこれまでのバックグラウンドや立場としての制約、培ってきた気質までを含んでている。

筆者はこの広義での視点のことをナラティブと呼んでいる

 

適応的問題解決の方法論

私たちはすべての問題を解決可能であると錯覚してしまう。つまり本来適応的問題であるものを技術的問題であると考え、失敗へと突き進んでいく。

この失敗を回避するためには、技術的問題に見えていた適応的問題を「適応的問題」であると再認知し、解きほぐしていく必要がある。筆者はこの解決プロセスを以下の4ステップで表現している。

①準備
②観察
③解釈
④介入

まず最初のステップ①準備である。この準備とは技術的問題であると錯覚していた問題を適応的問題であると受け入れる準備の段階である。問題が適応的問題であると受け入れて初めて、その問題の解決すべき本質は何であるかの②観察が可能になる。

対話による②観察を進めていくと、相手のナラティブが明らかになっていく。相手のナラティブが明らかになったところで、③解釈によって相手のナラティブにとってどうすればこの問題解決が有意味性を帯びるかを考え、互いの間の溝に橋をかけていく。

お互いの間に橋が架かってしまえば、この適応的問題に鎮座していた関係性のしがらみは解きほぐされている。関係性の課題を解決した今、適応的問題は技術的問題へと姿を変え、既存の枠組みによる問題解決が可能になる(④介入)。

 

他者の合理性

この本の内容を一言で要約するならば、岸政彦の「他者の合理性」である。

一見相容れない状況に対し、他者の立場から再度問題を眺めることで、他者が主張してきた合理性が初めて現れる。

この本の中で「他者の合理性」を強く感じさせられたのがあとがきの以下の文章である。

私たちはお互いに理解し合えない苦しみ、他者に見せられない痛み、そしてそれを語ることのできない寂しさを抱えて、今の企業社会を生きています。

しかし、私たちはだからこそ、そのことに向き合って、新たな信頼関係、絆、そして「連帯」を築いていく入り口に立っているのです。連隊とは、不愉快なことを言ったり都合の悪いことをしてくるようなわかりあえない他人と思うような人であったとしても、自分がその他人であったならば、同じように振る舞ったり、感じるかもしれないという可能性を受け入れることです。(p.178)

「自己責任論」が蔓延するこの世の中で、生きやすい社会をみんなでつくっていくためには他者の合理性が欠かせないと感じた。

 

 

【大胆すぎる詐欺師】スピルバーグ『Catch me if you can』

オススメ度:★★★★☆

2匹のネズミがクリームに落ちた。

1匹はすぐに諦め死んでしまった。もう1匹は諦めずにもがき、やがてクリームはバターとなり外に這い出た。

 

『Catch me if you can』

 

 この映画のエッセンス
・ディカプリオ×ハンクス×スピルバーグ=最高
・ディカプリオは詐欺師が似合いすぎる
・『ザ・クリスマス・ソング』が沁みる

 

あらすじ

地元の名士の家に生まれたフランク(レオナルド・ディカプリオ)は裕福な家庭で順風満帆の生活を送っていたが、父が国税局に目をつけられ脱税の容疑をかけられたことにより一家は没落してしまう。

さらに母の浮気や両親の離婚に辟易したフランクは家を出ていく。

 

マンハッタンに出てきたフランクは金を得るために小切手詐欺を始めるがうまくいかない。そこでフランクは社会的身分の高いパイロットになりすますことを思いつき、見事成功する。

手に入れた金で優雅な生活を送っていたフランクであったが、ハリウッドのホテルに滞在中にFBI捜査官のカール(トム・ハンクス)と鉢合わせてしまう。

銃を突きつけられ絶体絶命の危機であったが、自身を秘密検察官だと騙し逃げ遂せる。

 

再び豪華な生活に戻ったフランクはある日、知人の怪我を機に病院を訪れ小児科医になりすますことを思いつく。そして本当に病院に勤務するようになり、そこで知り合ったナースのブレンダと婚約する。

ブレンダの父親は有力な検察官であることを知ると、今度は法の道に戻りたいと嘘をつき、弁護士資格を取り義父の事務所で働き始める。

 

フランクとブレンダの婚約パーティーの日、カールはドア一枚というところまで追い詰めるが、フランクは再び逃亡する。

大胆な方法で国外逃亡したフランクと上司からギブアップを命じられたカールとの最後の追いかけっこが始まる。

 

感想

ディカプリオは詐欺師役がよく似合う。セクシーで不適な笑みと情熱的な演技が見るものを魅了する。

この映画は、主演:レオナルド・ディカプリオ、助演:トム・ハンクス、監督:スティーブン・スピルバーグと間違いないメンバーで作られた作品。

 

個人的にもっともグッと来たのがフランクが飛行機から脱走し、母の暮らす家を訪れたシーンである。

 

クリスマスの夜、雪の降る中フランクは父の親友と不倫し、そしてその相手と結婚した母の元を訪ねる。

そこには暖かい部屋で楽しげに過ごす美しい母と男、そして小さな女の子がいた。

 

フランクはクリスマスの夜にもう一度、母に会い受け入れてほしかったに違いない。

しかしある種完璧な形でできあがった幸せを見て、それを壊すことはできないと観念し、涙した。

 

BGMとしてナット・キング・コールの名曲『ザ・クリスマス・ソング』が流れ、情景を味わい深いものにしている。

 

色褪せない名作。

 

 

【本の紹介】さくらももこ『ももこの世界あっちこっちめぐり』

オススメ度:★★★★★

 

さくらももこ『ももこの世界あっちこっちめぐり』

著者:さくらももこ(1965~2018)

静岡県清水市生れ。静岡英和女学院短期大学卒業。新卒入社したぎょうせいを2ヵ月で退職し、漫画家となる。代表作に漫画『ちびまる子ちゃん』『コジコジ』、エッセイ『もものかんづめ』『さるのこしかけ』などがある。

 本書のエッセンス
・さくらももこによる世界旅行エッセイ
・同行者は夫・ガイド、ときどき父ひろし
・素直な感想が面白い

 

感想

さくらももこは格好つけない。だからこそ、彼女の言葉が虚栄ではなく、心から出たものだと信じられる。

 

グルメレポーターの「おいしい」は信用ならないが、さくらももこの「おいしい」は信用できる。

ましてやそのさくらももこが以下のように表現したということは、どれだけ素晴らしいのだろうと想像させられる。

ベネチアの空はくっきりと青く、レストランの庭の各テーブルから人々の話し声や笑い声だけがさざめいている。そんな場所で本場のスパゲッティを食べる幸せは、死ぬ間際にまで思い出してしまいそうだ。(p.38)

読んでいるだけでイタリアへ行き、このレストランで食事がしたくなってくる。死ぬ間際に思い出すほどの食事とはどれほどのものか、読みながらよだれが出た。

 

もちろんさくらももこのエッセイを読んでいて一番出るのは笑みである。言うまでもないが、とにかく表現が面白い。

 

本人や周りの人々が変わっているだけでなく、普通の人ならなんともない光景も、さくらももこ節でクスッと笑える一文にしてしまう。

そんな文章が随所に突然放り込まれているので、予期せぬタイミングで出会うと外で読んでいてもつい笑ってしまう。

オッサンが描いた絵は、「お土産プレゼント」のコーナーに載っているので気に入った方はぜひ応募していただきたい。(p.135)

無名とは言え、パリで気に入り作品をプレゼントにまでした画家をオッサン呼ばわりしていてしっかりと電車内で笑ってしまった。

 

時々本が読めなくなるスランプに陥ることがあるが、そんなときでも星新一とさくらももこだけは楽しく読むことができる。

さくらももこの新作がもう読めないのはとても残念だが、まだ出会っていないエッセイたちを大事に読んでいきたいと思う。

 

 

【ビジネス書の定番】グロービス経営大学院『MBA クリティカル・シンキング』

オススメ度:★★★★☆

本当に思考能力を高めるためには、考える習慣を身につけ、日頃から訓練を続けていく必要がある。実際にやってみることこそが、「できる」につながるのだ。(p.15)

グロービス経営大学院『MBA クリティカル・シンキング』

 

 本書のエッセンス
・クリティカルシンキング=論理的思考の方法論 × 正しく考える姿勢
・方法論だけでなく姿勢も大事
・「最後の藁」に安易に飛びつかない

グロービス経営大学院による論理思考の定番テキスト。

本書の内容はざっくり[考える枠をつくる][論理展開を考える][分析する]の3ステップで進んでいく。

 

クリティカル・シンキングとは

そもそもクリティカル・シンキングとは何であろうか。

一般的にクリティカル・シンキングとは「批判的思考」と訳されることが多いが、グロービスの定義では「ビジネスパーソンが仕事を進めるうえで役立つこと」にフォーカスしている。

この前提をおさえた上で、クリティカル・シンキングとは「論理的思考の方法論」×「 正しく考える姿勢」だといえる。

論理的思考の方法論(テクニックやフレームワーク等)と正しく思考するための姿勢(心構え)を組み合わせることにより、ビジネスにおいて「物事を正しい方法で正しいレベルまで考える」ことを実現しようとしている。(p.8)

 

 

ピラミッド・ストラクチャー

考える目的・枠組みとその根拠を視覚化するツールの一つが「ピラミッド・ストラクチャー」である。

 

まずイシューから論点となるキーメッセージを引き出し、頂点の結果を記載する。

その次に何が言えれば[結果]を主張できるかという問いを立て、その問いの答えを[原因]を探していく。

見つかった[原因]を要素ごとにグルーピングし、原因①②③…を記載する。グルーピングの際には「それらの要素から上位の要素が言えるか?(解釈が正しいか)」を「So What?」という問いで精緻化する。

また逆に結果に対する原因が正しいかを確認するため「なぜそれが言えるか、それは本当か(Why?True?)」を繰り返しロジックを強固なものにしていく。

 

 

その他の思考術

演繹法・帰納法の落とし穴

思考パターンの基本として演繹法と帰納法がある。帰納法はいくつかの事象から法則を抽出し、演繹法は事象(原因)と法則から結果を導く。これら2つの思考パターンには関係性があり、帰納法で導かれた法則が演繹法によって利用・検証される。

演繹法・帰納法ともに有益な思考パターンであるが、その利用には注意点がある。

①間違った情報
②隠れた前提
③論理の飛躍
④ルールとケースのミスマッチ
⑤軽率な一般化
⑥不適切なサンプリング
②-④ 演繹法
⑤-⑥ 帰納法

 

最後の藁

「最後の藁」とは海外のことわざからきている。限界寸前まで疲弊したラクダに藁を乗せたところ、ラクダが倒れてしまった。人々はラクダを倒れた原因をここまでの疲労の蓄積ではなく、最後に藁を乗せたことだと考え非難したというものだ。

物事を原因を本質から考えず、トリガーにすべての原因があると考えてしまうという錯覚を示している。

 

このような錯覚は笑い話ではなく実際によくみられる。

例えばあることをきっかけに妻が起こりケンカが勃発した際、実際にはこれまでの我慢の積み重ねが原因であるにも関わらず、夫は「最後の藁」だけを原因だと考え齟齬が生まれるというのはあるあるだと思う。

 

ビジネスにおいても目の前の原因と思しきものにすぐに飛びつくのではなく、一度立ち止まって本質から原因を調査することが大切である。

 

仮説思考

思考過程においては常に事実が存在するわけではなく、とりわけ不確定要素に対する説は仮説となる。「良い仮説」をつくるためには、以下の要素を押さえておくことが重要である。

①経営に関する知識
②特異点を探知するセンス
③質の高い仮説を目指す志

 

***

 

思考の基礎が網羅的に学べる良本であった。他の思考方法論と併せて実践していくことで血肉としていきたい。