オペレーションではなくマネジメントをやろう(p.10)
松田千恵子『グループ経営入門』
著者:松田千恵子
東京都立大学経済経営学部教授。
1979年、アメリカの社会学者エズラ・ヴォーゲルによって『ジャパン・アズ・ナンバーワン』という本が出版され、ベストセラーとなりました。
この本は黄金期を迎えていた日本に特有の「日本型経営」を高く評価したもので、当時の日本の隆盛具合が伺えます。
しかしその後バブルが崩壊、日本経済は冬の時代に突入。以後、強かったはずの日本型経営はグローバル化の中で苦戦を強いられることになります。
なぜ日本型経営は世界に通用しないのでしょうか。その原因を都立大学経済経営学部である松田千恵子教授は、「本来の経営」ができていないからだと指摘します。
この本では「本来の経営」とは何かを定義した上で、今の日本に必要な「オペレーションからマネジメントへの転換」について解説されています。
第1章 本来の経営を取り戻す
第1章では本来の経営とはなにかの定義・日本現状分析・本社の流れの概略が示されています。
本来の経営とは何か
従来の「日本型経営」が本来の経営でないとすると、いったい本来の経営とはどんなものなのでしょうか。松田教授は本来の経営を、以下のように定義しています。
事業・組織・財務の3つの要素を統合させ、企業価値を高める(p.5 図表より)
経営は大きく3つの要素から成り立っていいます。本業としてキャッシュを稼ぎ出す事業、取り組む人である組織、そして先立つものを工面する財務です。
本来求められる経営とは、事業・組織・財務が三位一体となって企業価値を向上させることなのです。
これまでの日本の現状
しかし戦後日本の経営は、終身雇用・年功序列・協調的組合によって組織を安定化、また財務は銀行に任せることによって「やりたいこと(事業)」に専念するという構造をとっていました。つまり企業は、組織と財務について頑張らなくてもうまくいく、ぬるま湯に浸かり続けてきてしまったのです。
人口増加のブーストによって経済が支えられた間はこの方策でうまく行っていましたが、成熟期の現在には適した仕組みではなくなってしまった。
具体的なアクション
この状況から脱却するために松田教授が主張するのが、本書のメインメッセージである
「オペレーションではなくマネジメントをやろう」(p.10)
になります。
従来の事業中心の体制から転換し、本来の経営に取り組んでいかなくてはならないのです。
第2章 「ゴール」を決めて共有する
本来の経営は事業・組織・財務の要素を統合させ企業価値を高めることでした。次にこの企業価値の中身を見ていきます。
2種類の企業価値
企業価値には定量的なものと定性的なものとで2種類あります。
定量的なものは本書では「土台」とも呼ばれ、利潤追求の成功度を測る指標になります。専門的な言い方をすれば
「負債と資本のコストを勘案後の、その企業が生み出す将来的なキャッシュフローの現在価値の総和」p.19((引用
とも定義できます。
もう一方な定性的な企業価値は「大黒柱」と呼ばれるもので、企業として追い求める目的であり企業理念とも言い換えられます。
多様性の時代においては大黒柱を明示することは非常に重要であり、外部に発信して伝えていく必要があります。
ミッション・バリュー・ビジョン
「大黒柱」である定性的な企業価値である企業理念は、理論的に強固でなくてはなりません。企業理念を堅牢なものにするために用いられるのが、ミッション・バリュー・ビジョンといったものになります。これらの言葉もしっかりして整理して理解する必要があります。
この中で最上位にくるのがミッションです。日本語では使命や社是という言葉がこれにあたります。そしてこのミッションを実現していく上での態度のことをバリューと言います。価値観や社訓がバリューの訳になります。
そしてミッションとバリューを合わせたものが企業理念です。残るビジョンは理念的な内容を、具体的な将来像につなげる役割を果たしています。
したがってビジョンは「20XX年のあるべき姿」のように中期的に定められるのに対し、ミッションやバリューは企業の存在意義そのものであるために、基本的に変更されることはありません。
企業理念がしっかりと定められ、社員の間に遍く浸透している企業では、社員の判断が企業理念から外れることがなくなります。つまり企業理念はソフトコントロールとして機能し、リスクマネジメントにもなるのです。
経営者の役割
企業価値には定量的=左脳的なものと定性的=右脳的なものがあることを確認してきました。この2つのうちどちらが大事ということではありません。
左脳だけなら投資ファンドと同じで、右脳だけでは慈善団体と同じになってしまいます。経営者が担っているのは、この2つをつなげる役割なのです。
そして経営者は社内外に「統合された企業価値・実現するための方策・言葉の定義」を共有していくことが肝要になります。
第3章 本社の役割を確認する
本来の経営・企業価値とは何かを確認していきました。この章ではグループ会社における役割配分のうち、主に本社機能を確認していきます。
グループにはどんな役割があるのか(小見出し
グループは以下の3つの機能から成り立っています。
①事業を推進する機能
②事業を管理する機能…本社の仕事
1. 「見極める力」本社の投資家的機能
2. 「連なる力」本社の連携強化機能
3. 「束ねる力」本社のグループ代表機能
③事業を支援する機能
日本では本社が投資家的機能を果たせていない(小見出し
日本企業のグループ経営における顕著な特着は、本社が「投資家」的機能をきちんと果たせていないということです。
日本企業の本社が適切に投資家機能を果たせなかった要因としては、大きく以下の4つが考えられます。
①事業部およびその出身者が力を持ちすぎている
②CFOの不在
事業推進→COO
事業推進以外すべて→CFO p.67
③安全化装置付きの経営をしていた(BSの軽視)の遺物p.70
④日本型経営システムの結果、人事部門の戦略不在
本来取り組まなくてはならない、グループ本社機能の具体的な中身は以下の通りです。
これらの機能がしっかりと果たされることによって初めて、組織がうまく回っていけるのです。
「見極める力」本社の投資家的機能
・個別事業の見極め(投資家機能)
・経営管理の充実(インフラ整備機能)
「連なる力」本社の連携強化機能
・シナジーの発揮
・事業再生支援
・新規事業の立ち上げ・M&A
「束ねる力」本社のグループ代表機能
・経営資源の調達、外部への情報の開示
・グループアイデンティティの確立と浸透(グループの統合)p.80
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第4章 「見極める力」を強くする(1)
前章でグループにはどんな役割が存在しているのか、そしてグループの中で本社が果たすべき役割は何であるのかを確認していきました。
ここでは本社の役割の一つである「見極める力」をさらに掘り下げて見ていきます。
本社の仕事である「見極める力」には、個別事業の見極めと経営管理の充実があります。
これまでの日本企業では、事業予測は軽視されてきました。
その要因としては、
①安全装置的経営のため
②日本経済が安定していた
といったことがあげられます。
しかし現在は安定の時代が過ぎ、株主やステークホルダーにむけて論理・数字・事実に基づいた将来予測を示す必要が出てきました。
企業の行う将来予測には2つあります。
ひとつは各事業部門が行う事業予測。ここには現場の意見が反映されます。部分最適を目指すものになるため、事業の停止といった不連続な予測は行われません。
もう一方が本社が行う将来予測。全体最適の観点から、事業から経営資源の投下引き上げといった判断が下されることもあります。
本社が行う将来予測
本社が行う将来予測においては以下の7点が重要視されます。
①企業理念と一致しているか
②キャッシュフローに影響するか
③「大きな物語」をつくる
④事業の型を把握する
⑤徹底的に議論する
⑥非連続なジャンプを考える
⑦数字に落とす
⤴︎囲う
本社による将来予測のためには、まずは外部環境分析を行い、次に内部資源分析という経路を辿る必要があります。しかし多くの企業ではこれとは逆に、「自社ありき」の分析がなされています。この自社ありきの発想では、客観的な分析ができず、適切な経営資源の配分ができなくなってしいます。
外部環境分析から内部資源分析に入る段階で、自社の「ユニークなポジション」は何かに目を向けていきます。ここで重要なのが、自社のその事業が「なぜそのマーケットポジションを得ることができたのか」ということです。そしてその問いの答えが強み(優位性)であると言えます。
しかし、どんな素晴らしい強みもいつかはその効力を失います。盛者必衰であり、例外はないことを肝に銘じておかなくてはなりません。
将来予測(計画)の最後には数字に落とし込んでいきます。それまでに分析した定性的な要素を数字に落とし込んだ将来予測を「ファイナンシャルプロジェクション」といいます。
ファイナンシャルプロジェクションでこだわるべきは点はキャッシュフローです。キャッシュの出入りの中で最も大きなものは売上ですから、まずは売上を設定してからその他の項目を決めていきます。負債と資本については5章で改めて説明されています。
完成したファイナンシャルプロジェクションは使い倒していきます。事業部門の提出した投資計画との擦り合わせ、将来のシミュレーション、外部投資家への説明など様々な場面で役に立ちます。
第5章 「見極める力」を強くする(2)
本社の行う将来予測のなかで、欠かせないのが「先立つもの」にあたるファイナンスです。
この章ではファイナンスのなかでも①負債と資本、②資本コスト、③企業価値評価の3つの問題について説明されています。
負債と資本の問題
まず負債と資本のちがいについて考えます。負債は銀行などから借入れる借金のことです。見返りは安いが、借りたお金を必ず返さなくてはならない「債権者」によって提供されます。
一方で資本は「株主」によって提供され、逆に高い見返りが要求されるが、決まった期日に返す必要はないのが特徴です。
「債権者」から資金提供される場合と、「株主」から資金提供される場合では、企業に求められる経営が変わってきます。「債権者」は確実に返済してくれることを望んでいるので、着実な経営を、「株主」はハイリターンを望んでいるので積極的な経営を臨みます。
したがって企業はハイリスクの事業では資本を多めに入れ、ローリスクの事業では負債を多くしていきます。本社はこのバランスが最適資本構成になるよう追求しています。
資本コストの問題
資本コストとは、「これだけは支払いをするから、うちを投資先に選んでくれ」という、約束に近いものです。
ざっくり言えば債権者や株主に払う推定費用のことです。債権者であれば金利、株主であれば配当や株価上昇益がこれにあたります。ただし将来の話なので、実払額ではなく、見積もりになります。
企業価値評価の問題
全世界的に、企業の成功を測る指標は「企業価値」になっています。グローバルで通用していくためには、企業価値重視の経営管理が欠かせなくなっています。
企業や事業の価値を測るには、以下の3つの手法が主に用いられます。
① インカム・アプローチ
② コスト・アプローチ
③ マーケット・アプローチ
本書では主にインカム・アプローチが取り扱われています。インカム・アプローチでは将来生み出すフリーキャッシュフロー(FCF)を予測し、それを現在価値で割り引くことで企業価値を求めます。
FCFとは、現事業からのCF−現事業維持のために使われるCFと定義され、借入金の返済、株主への還元(自社株買入・配当)、投資に使われます。
経営管理を充実させる((小見出し
本社が投資家的な役割を果たし、事業の価値を測るには、事業ごとの情報を正しく収集する基盤が必要になります。
日本企業の一番の弱みは、「左脳的な企業価値」をコントロールするためのこの基盤がそもそもないことです。この基盤を整えるためには、企業価値を軸とした経営管理、すなわち管理会計を正しい形で充実させていかなくてはなりません。
個々の事業で損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書およびそれらの将来予測に関する全てを備えることによって、本社は投資家として必要な情報を持ち得たことになります。
「見極める力」の完成((小見出し
経営管理を充実させ、個々の事業に関する情報を本社が持ち得ることによって、経営におけるPDCAサイクルを回せるようになります。
P:本社と事業とで戦略を議論し、D:明確な投資を行い、C:業績を評価して、A:次の戦略へとつながっていくのです。
第6章 「連ねる力」を強くする
本社の役割の2つ目は「連ねる力」でした。具体的には、
・シナジーの発揮
・事業再生支援
・新規事業の立ち上げ・M&A
が「連ねる力」の中で本社が果たすべき役割となっています。
2種類のシナジー((小見出し
シナジーには、ダウンサイドシナジーとアップサイドシナジーの2種類があります。ダウンサイドシナジーとは、個々の事業を合わせることでコスト削減を実現することを意味し、アップサイドシナジーは価値を増大させることを意味します。
シナジーに関する本社の仕事((小見出し
グループ内でシナジーを産むために必要な本社の仕事は大きく4つあります。
①シナジーの源泉を探る
②事業部門間のファシリテーションを行う
③目的・意味を明確にする
④定量化し、モニタリングを行う
⑤適切な人材を配置する
本社は事業部門に丸投げせず、適切に介入・サポートしていくことが必要になってきます。
事業再生支援の留意点((小見出し
インキュベーション機能((小見出し
自前でつくるか買ってくるか考える
研究開発について((小見出し
感想
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