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【明代の処世術】洪自誠『菜根譚』

オススメ度:★★★★☆

苦心中、常得悦心之趣、得意時、便生失意之悲(p.95)

 

洪自誠『菜根譚』

 本書のエッセンス
・儒教・道教・仏教から生まれた処世術
・前集222段・後集134段から成る
・対句の特徴を持つ

 

概要

明末の思想家・洪自誠によって書かれた処世術の本。

特定の宗派に偏らず、儒教・道教・仏教それぞれのエッセンスが組み合わさった内容となっている。

 

前集222段・後集134段の短い文章から成っており、対句で書かれている特徴を持っている。

 

タイトルの『菜根譚』は『小学』のなかの一節である「嘗って人は常に菜根を咬み得ば、則ち百事做すべし」からきているとされる。また譚は談と同じ字である。

中国ではあまりヒットしなかったが、19世紀に日本で紹介されるとたちまちベストセラーとなり、多くの愛読家を獲得した。

 

感想

Eテレにて放送されている「100分de名著」で知り興味を持った本。個人的に儒教的な精神論は好みなので気になり購入した。

いろいろな出版社から様々な訳書が出ており、書籍によって全文が載っていたり、訳文が異なっていたり、書き下し文が載っていたりとバリエーションに富んでている。

私は初め「100分de名著」で講師をされていた湯浅邦弘教授による中公新書の『菜根譚: 中国の処世訓』を読んだ後、こちらの本では全談の記載がなかったためPHP研究所(守屋洋)版と講談社学術文庫版を購入し、最終的には書き下し文が載っている講談社学術文庫版で読み通した。

 

どのような順で話が並べられているかは不明であるが、体感としては前半に儒教的な克己心を重んじるような内容が多く、後半に道教的な知足を重視した内容が多かったように思える。

私はどちらかといえば儒教的な考えが好きなので、前半のほうが刺さる内容が多かった。

 

いくつかある気にいったものの中から特に好きな文章を記載しておく。

苦心中、常得悦心之趣、得意時、便生失意之悲

 

[訳語]一生けんめいに苦労しているあいだには、いつも心を喜ばせるようなあじわいがあり、反対に、成功してすべてがうまくいっている時には、その中にすでに失意の悲しみが生じている。(講談社学術文庫 p.95)

 

辛く苦しい時にはすべてが絶望して見えてしまうが、実際にはその反対であり、苦労の中に若しくは苦労そのものに喜びがあるという部分に感銘を受けた。

加えて漢文で書かれるとどことなくありがたいものに思えるのも効果を増大しているような気がする。

 

読むときのバックグラウンドや心理状態によってひっかかる文が異なる本であるため、また時間を開けて再読したい。