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【3本の矢とは】伊東光晴『アベノミクス批判』【失敗か成功か】

オススメ度:★★★☆☆

「安倍首相の現状認識は誤っている」

 

アベノミクスが始まってから7年以上が経つ。この間に安倍政権は戦後最長を更新し、日本経済史・政治史を振り返るうえでも欠かせない出来事となった。

この本ではアベノミクスの初めの3年間ほど(3本の矢が盛んに叫ばれていたころ)についての批判がなされている。 

 

アベノミクス:3本の矢とは

3本の矢とは2013年に「日本再興戦略」で全体像が発表されたアベノミクスの政策運営の柱である。アベノミクスという言葉自体は第一次安倍内閣からあり、2012年11月の衆議院解散あたりに朝日新聞が使用したことがきっかけで使われ始めた。

 

3本の矢は①大胆な金融政策、②機動的な財政政策、③民間投資を喚起する成長戦略の三つからなっている。①大胆な金融政策とは俗にいう「異次元の金融緩和」のことで、インフレを達成するために市中にお金を流し続けることを指す。②機動的な財政政策は、南海トラフ地震に備え大規模な対策(10年間で200兆円)を行う「国土強靭化計画」をはじめとする一連の財政出動を指す。そして三つめの成長戦略は民間の技術革新促進のため規制緩和を行うものである。

 

アベノミクス批判

この本のタイトルからもわかる通り、筆者である伊東教授はアベノミクスについて懐疑的な見方をしている。もう少し正確に言うと元日銀副総裁であった岩田規久男教授への批判が中心となっている。

 

まず一つ目の矢である金融緩和についてみていく。政府はこの金融緩和によって有効需要を増加&物価上昇を期待していた。そして確かに物価上昇は起こった。

しかし筆者はこの物価上昇を「異次元の金融緩和」によるものではないと指摘する。筆者によれば物価上昇は大きな円安によって輸入品価格が上昇(つまり原材料が上昇)したため「コストプッシュ」という形で価格が上昇したのであり、金融緩和の帰結ではないとする。

また日本の株価上昇は、リーマンショック後各国は低金利政策によって株価上昇を遂げた中、残った市場であった日本に外国ファンドが資金を注入したのが原因であり、アベノミクスの成果ではないと話す。実際にデータをみると日銀が「異次元の金融緩和」を発表した時期よりも前から株価の上昇が始まっていたことが分かる。

 

次に2本目の矢である財政出動だが、政府は10年間で200兆円規模の予算を組んで「国土強靭化計画」にあてると話していたが、筆者は実際にはそんな予算は現実的に組みえないと話す。

 

最後に三本目の矢である民間投資の喚起であるが、これは民間で技術革新が起こることを期待した政策であり、技術革新が起こる方法を有しているわけではない。政策そのものに具体性が見られないのだ。あくまで他力本願の政策であり、実現されるかどうかは不透明であると筆者は指摘する。

 

 

感想

この本の中だけでは説明が足りていないと感じている部分(例えば、アベノミクス以前から株価上昇が始まっていたと話すが、アベノミクスが実際にどの程度株価に影響を与えたのかという計量的なデータは示されてない)などはあったが、全体としてケインジアンの立場として適切な批判であったと感じた。

 

ただ終盤は安倍首相の政治的スタンス(筆者はこの部分を第四の矢と表現している)批判が中心となり、経済の話から離れてしまったのが残念であった。伊東教授はこの本から読み取れる中だとやや親中寄りであり、中国大使を務めた丹羽宇一郎氏の名前もたびたび上がっていた。