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朝9時前にHotel CLADからアウトレットに行く方法【さわやか攻略】

御殿場アウトレット内にある温泉付きホテル:Hotel CLAD。

 

日中はP4に併設された橋を使ってホテルとアウトレットを自由に行き来することができますが、21時〜翌9時の間は施錠されてしまい、行き来するこたができません。

 

アウトレットの店舗の開店時間は10時なので基本的に困ることはありませんが、降りる必要が生じた時に降りられないのは困ると思います。

困るシチュエーションとして一つ考えられるのは、休日の朝にアウトレット内のさわやかに並ぼうとした時です。さわやか御殿場アウトレット店は開店こそ10時ですが、整理券の発券は9時から行っています。さわやかは大人気店なので、正直に9時から並ぼうとすると、その時にはもうずらっと行列になっていることもしばしばあります。

実際7月の日曜日の朝にに私が並んだ際には、9時時点で100人以上の人が並んでいました。

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このようなイレギュラーなシチュエーションにおいては、ホテルからアウトレットに行く迂回ルートが必要になります。

今回は私が実際につかったホテルからアウトレットまでの迂回できる徒歩ルートを紹介します。

 

まずはホテルからホテルの駐車場の方は向かってください。

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するとホテルの駐車場から道路に出られるので、まずは道路にでます。そしてそのまま2分程度下っていくと、アウトレットの駐車場P4があるのでそこから入ります。

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P4駐車場に入ると、そのままアウトレットの方まで歩いて抜けられるので、車に気をつけてアウトレットに入りましょう。

あとはアウトレットを道なりに沿って進めばさわやかに到着します。

 

常にひどい混雑で整理券をゲットするのが難しいさわやか御殿場アウトレットですが、ぜひこの方法で朝イチさわやかを成功させてみてください。

 

 

【夏にオススメ】村上春樹『風の歌を聴け』【感想】

オススメ度:★★★★☆

37度っていえば一人でじっとしてるより女の子と抱き合ってた方が涼しいくらいの温度だ。(p.55)

 

村上春樹『風の歌を聴け』

著者:村上春樹(1949~)

京都府京都市生れ。早稲田大学第一文学部卒業。1979年『風の声を聴け』で群像新人賞を受賞しデビュー。1987年に発表した『ノルウェイの森』は上下巻1000万部のベストセラーとなり、村上春樹ブームが起こった。2006年にはフランツ・カフカ賞をアジア圏で初めて受賞。主な作品に『海辺のカフカ』『1Q84 』などがある。

 

感想

夏を感じられる小説と言うときの、夏っぽさとはなんであろうか。

ふつう夏といえば、太陽の日差しが降り注ぎ、少年が大きな虫取り網を持って駆け回り、木陰で溶けかけたアイスキャンディをかじるようなイメージがある。そういった突き抜ける様な爽快感が夏にはあるが、「夏を感じられる小説を読みたい」ときの夏のイメージは少し違った感じがする。

具体的には、人生の流れの中で意図せず訪れた、楽しい思い出の数々と、それを失ったことによるノスタルジーに似た憂愁が「夏を感じられる小説」から感じられる「夏」らしさではないかと思う。

 

村上春樹の処女作であるこの『風の歌を聴け』はまさに「夏を感じられる小説」を読みたいときにぴったりの作品だ。

20代最後の歳である〈僕〉は、大学生だった8年前の夏を回顧する。

酒の場で偶然仲良くなり、フィアットを飲酒運転して一緒に事故を起こした〈鼠〉。彼とは日々バーに入り浸り、ビールを浴びるほど飲んだ。

また〈4本指の女の子〉との思い出もある。彼女とはバーで潰れていたところを介抱したところから関係が始まった。突き放す様な態度を取られたこともあったが、彼女とも終いには寝た。

〈僕〉がこれまでに寝た3人の女の子のこともある。ただその子たちも、今では顔が思い出せない。

 

これらの思い出の中の出来事は、人生の中で意図せず訪れ、静かに去っていった。ひとつひとつの出来事は、人生を大きく変える出来事だったわけではない。ただ、2度と帰ってこない思い出だけがそこにある。そしてそれらの思い出を回顧したときに感じる一抹の寂しさこそが、小説の「夏」らしさなのだと思う。そういう意味において、やはり『風の歌を聴け』は「夏を感じられる小説」を読みたいときにぴったりの作品だと思う。

 

さて、この作品が「夏」たらしめているもう一つの要因として、村上春樹特有の文体、言い回しがある。作中にとても気に入ったセリフがあったので、最後に紹介したい。

作中のラジオの中で、ラジオパーソナリティが8月のあまりの暑さを表現しているシーンがある。

ところで今日の最高気温、何度だと思う?37度だぜ、37度。夏にしても暑すぎる。これじゃオーブンだ。37度っていえば一人でじっとしてるより女の子と抱き合ってた方が涼しいくらいの温度だ。(p.55)

気温が体温よりも高いことを表現するのに、こんなにも村上春樹みのある、オリジナリティのある表現があるのかと衝撃を受けた。言葉が単なる伝達手段ではなく、個性を強烈に表現できるのだと再認識させられた作品となった。

 

もし「夏を感じられる小説」を読みたいという場合には、ぜひオススメしたい作品です

 

 

 

【土日】さわやか御殿場アウトレット店の整理券をゲットしてきた

 2022年7月某日、御殿場アウトレットに行きたくなり急遽ロマンスカーを予約し行ってきました。ついでにアウトレット内にあるホテルも予約し、土日で回ることに。

 

行きしなにふと「せっかく静岡に行くんだから、さわやかでハンバーグ食べて行きたいな」と思い、予定に追加。

さわやかはいつも混んでいることで有名で、中でも御殿場アウトレット店は6時間待ち、7時間待ちは当たり前という超人気店。土曜日はアウトレットに13時前あたりに着く予定だったので、「6時間待ちくらいの整理券ゲットして、ブラブラしてから行けばちょうどいいな」なんて呑気に考えながらいざついてみると、、、

 

《受付終了のご案内》

 

チーン。完全になめてました。まだ夏休みじゃないからと油断した結果がこれでした、、、

 

結局この日は他のお店で夕飯を食べ、適当にブラブラして終了。

しかしわざわざ静岡まで来て、さわやかを食べずに帰るわけにはいきません‼︎普段だったら空いている店舗まで車で移動したりしますが、今回は電車での移動、フレキシブルな行動はできません。この日はさわやかを諦め、チャレンジは次の日に持ち越しに。

 

さて次の日ですが、帰りのロマンスカーが12時台にあります。すなわち次の日(日曜日)にさわやかで食べるためには、10時台に入店する必要があります。

さわやか御殿場アウトレット店の開店は10時なので、この日にさわやかで食べるためには、ほぼほぼ先頭集団としてさわやかに入らなくてはいけません。

普段だったら過酷なこのチャレンジですが、今回我々は敷地内のホテル、Hotel CLADに泊まるというアドバンテージがあります。ほとんどの店舗の開店時間は10時からなので、朝早めに起きて、整理券発行時間(9:00)前に並んでおけば余裕で一番をとれると踏んで決行することにしました。

 

次の日(日曜日)の朝8時、我々は7時前に起き朝風呂に入り、万全の状態でアウトレットに向かいました。

しかしホテルとアウトレットを結ぶ橋を渡り切った時ある問題が発生。

 

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連絡通路の扉が開いていない!!!

 

ホテルからアウトレットに直接行くためにはこの通路を通らねばいけません。はて、これは困った。ホテルのフロントで確認すると、あの通路は9時まで開かないそうです。一旦部屋に戻り作戦会議。

「まぁあの道が通れないなら他の人も並べないだろうし、9時になってから急いで行けばいいかな」とも思いましたが、「ここで妥協して食べられなかったら絶対後悔する」と思い、他の方法を模索。

アウトレットに直通で行ける道はあの通路しかないので八方塞がりかと思いましたが、「一度敷地からでればいいのでは」と気がつき実行することに。

歩行者用の道からは出られないので、ホテルの駐車場を経由して一度外にでます。

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そして道路に出たら道なりに下って行き、アウトレットのP4駐車場からアウトレットに入って完了です

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こうして8時10分頃にはさわやかの前に着くことができました。土日のアウトレット店は発券開始が9時からなので、50分前には着けたことになります。

余裕で先頭集団になったかと思いましたが

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...ガッツリ並んでる!

 

ざっと数えたところ、自分の前には20人ほどの人が並んでいました。ベンチにも限りがあるので、ギリギリ座れず。

ここから人数がどんどん増えて行き、発券開始時間である9:00には100人以上の人が並んでいました。

 

何はともあれ、無事整理券発券できました。

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一巡目ではありませんでしたが、13組目で開店から25分後の10:25をゲット。実際には10:30に入店し、10:40ごろに席に案内してもらえました。

 

多少トラブルはありましたが、最終的には希望する時間で食事ができてよかったです。

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退店後(11:20)待ち時間を確認したらすでに受付終了になっていました。土日にさわやか御殿場アウトレット店を利用の場合は10:30までには予約を済ませておくのがオススメです。

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安部公房『砂の女』【あらすじ・感想】

オススメ度:★★★★☆

穴の中にいながら、すでに穴の外にいるかのようなものだった(p.261)

 

安部公房『砂の女』

著者:安部公房(1924~1993)

本名は安部公房(きみふさ)。東京府生れ。東京大学医学部卒業。誕生後すぐに家族で満州に渡り、旧成城高等学校(現成城大学)に入学を期に日本へ帰国した。1948年『終わりの道の標べに』でデビュー。『壁-S・カルマ氏の犯罪』で芥川賞を受賞。作品は世界30か国で翻訳出版されるなど、世界的評価も高い。著書多数。

 

あらすじ・感想

教師業の男が、ある集落の、自力では這い出られない砂の穴底に閉じ込められるという奇妙なストーリー。砂に沈みゆく家には、砂を掻き出す男手が必要であり、集落はその労働の担い手として男を閉じこめる。砂底の家には30歳くらいの女が一人住んでいて、男はこの女と同居を強制される。

前半では、男は集落の人間に対して、自分には人権があり、この事態は完全なる人権侵害であると主張を続ける。

しかし、集落の人間は男の主張を全く受け付けない。なぜなら、男の主張する人権というのは、"社会"の論理であって、社会から隔絶、あるいは社会に見捨てられたこの集落では全く通用しない。この集落にとって重要なのは、集落を維持し続けることが最重要であるという集落の論理であり、集落の人間にとって男の主張は受け付けるに値しない。男を穴底に閉じ込めておくことは、集落や女の論理からすれば全く正当な行為になる。

だから男が穴の中でいくら男の論理で異常を指摘しようとも、女は少し困った様子を見せるだけで、すぐ日常へと戻ってしまう。

女は黙っていた。言い返しもしなければ、弁解する気配もない。しばらく待って、男が言いやめたことを確かめてから、まるで何事もなかったように、そろそろと体を動かし、やりかけの仕事のつづきを始めるのだ。

 

ここでの男と集落の対立は、論理の強制によって生じたわけだが、論理の強制自体は珍しいものではなく有史以降絶えず行われてきた。

現代で言えば社会に通念する論理とは資本主義であり、その主体≒集落は資本家である。労働者は這い上がることのできない砂の底に永遠に閉じ込められている。

もちろん、それ自体が不幸というわけではない。穴底の家で同じように暮らす男と女だが、集落の論理側に立つ女はこの暮らしの中にささやかな楽しみを見出し、ラジオを買うために内職にいそしんでいる。一方男は理不尽に抗い、生きるために必要な砂かきを拒否するが、状況は悪化の一途を辿る。

男と女の最大の違いがどこにあるかと言えば、自由をもがれている実感があるかないかである。状況が同じであっても、それをどう受け取り実感するかで世界は変わってくる。

 

最後のシーン、穴に縄梯がかけられていつでも脱出できるようになっても、男はすぐには出なかった。しかし男の中で大きく変わったことがあった。それは自由を実感していることである。

結局、私たちが無条件で砂の穴底に閉じ込められている以上、世界を疑い、通念と戦いながら男のように生きるか、全てを受け入れて、その中で小さな幸せをみつけ女のように生きるか選ばなくてはならないのだ。

 

【やま中 赤坂店】博多のもつ鍋が最高すぎた【感想】

ずっと来たかった博多に初来訪。旅行の目的といえば色々あるけれど、事前にコースを予約して利用。当日に確認の電話が来た。

場所は赤坂駅から近く、迷うことなく到着できた。

店へ上がる階段から豪華で、期待値が上がる
受付フロントは広く、スムーズに案内された。

店内は広々としていながら適度な仕切りによって、周りの目はあまり気にならない。

コースにはドリンクは含まれていないため別途で注文。 

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はじめにもつ鍋の味を選ぶ。味噌、醤油、しゃぶしゃぶ風の中から、今回は人気のありそうな味噌を選択。味を選ぶと一品料理が運ばれてきた。

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一品料理はどれもこれも美味しく、酒がどんどん進んだ。

端の席だったためかあまり店員さんがコースの進みを確認することはなく、次の料理を頼むためにコールする必要があった。この点だけ少し残念だった。

もつ鍋はすぐに食べられる状態で提供されたのがとてもよかった。美味しくいただくために少しだけ加熱してから食べた。味噌のコク、モツの脂、塩分そしてニンニクがそれぞれ主張し、ガツンと脳にくる味だった。その強い味がスッキリとした日本酒とよく合っていた。

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特にスープの染み込んだキャベツは絶品で、今まで食べたキャベツの中で一番美味しかった。

〆はちゃんぽん、うどん、雑炊から選べ、雑炊も捨てがたかったがスープの味の濃さを考えちゃんぽんを選択した。
これは選択は大正解で、しっかりした麺と濃いスープがよく絡み最高だった。

デザートのアイスで口をさっぱりさせ、大満足で食事を終えた。

【2ヵ月で受かる】ビジネス会計検定2級の勉強法【オススメ】

2022年3月13日に行われたビジネス会計検定2級に合格しました。

勉強時間ややり方をこれから受ける方の参考になればと記録を作成しました。

ビジネス会計検定3級を飛ばして2級を受けていいかなど、受験者が気になる情報もまとめてあります。

 

ビジネス会計検定2級の勉強法

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試験の概要

ビジネス会計検定は大阪商工会議所が主催する検定試験です。この試験では、務諸表に関する知識や分析力が問われます

よく疑問にあがるのが、日商簿記との違いです。日商簿記では財務諸表の作成が中心であるため、学習上でポイントとなるのは勘定科目の暗記と理解です。

一方でビジネス会計検定では財務諸表の読み取りを行います。したがって数値の意味を理解していくことが大切になってきます。

 

2級の試験は年に2回あり、2022年は3月と10月に行われました。

 

詳しい情報は検定ホームページをご覧ください。

www.b-accounting.jp

 

難易度・勉強時間

難易度は比較的易しめであると感じました。

体感としては簿記2級 >> ビジネス会計2級 ≧ 簿記3級といった感じで、2級よりはだいぶ易しく、簿記3級とはトントンくらいでした。

 

かかった勉強時間以下の通りです。勉強期間は2ヵ月程度でした。

総勉強時間:35.6時間

  公式テキスト:9.2時間

  公式過去問題集:26.4時間

下のグラフを見てもらえばわかると思いますが、私の場合だいぶサボって終盤に駆け足で勉強しました。もし集中的に勉強する時間が取れるのであれば、2,3週間での取得も可能だと思います。(簿記の最低限の知識がある場合)

それぞれのテキストの使い方と勉強法は次の章で詳しく説明しています。

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*縦軸は分

使用したテキスト・受かる勉強法

ビジネス会計検定3級を先に取得すべきか

勉強法の前に受験前の私の知識状態を説明しておきます。私が受験勉強を開始した時点で、簿記2・3級は取得済、ビジネス会計検定3級は未受験でした。

ビジネス会計検定2級のテキストでは最低限財務諸表の仕組みが分かっている前提で話が進むので、ビジネス会計検定3級または簿記2級を事前に取得しておくとスムーズに勉強を進めることができオススメです。

簿記2級を取得していれば、ビジネス会計検定3級の勉強は飛ばしてしまいまったく問題ありません。ビジネス会計検定3級で出てきた公式なども、ビジネス会計検定2級で一通り解説がされているので3級を飛ばしても困ることはありませんでした。

 

使用したテキスト

使用したのは以下の2冊だけです。

 

この2冊さえあれば、確実に合格圏にたどり着くことができます。逆にこれらのテキスト抜きで合格するのは難しいと思うので、受験する予定の方は必ず手に入れておきましょう

 

受かる勉強法

基本は公式テキストを1周→公式過去問題集に取り組むという流れで大丈夫です。

私は最後時間が無くなってしまったため過去問すべてを終えることができませんでしたが、余裕をもって合格できました。ですので過去問題集を全て解き終え、解きなおしまでできたという方は問題なく合格できると思います。

 

効率よく勉強するポイントは2つあります。

一つ目は何度も復習して知識を固めることです。

この試験では覚えることが少ない代わりに、同じ知識を何度も使うことになります。したがって暗記が不十分だと何問も落としてしまう可能性があります。よく出る部分は限られているので、何度も繰り返し確認して知識を定着させていきましょう。

オススメはポイント部分を自分でまとめて暗記シートを作成することです。私はルーズリーフ2枚程度に覚えなくてはいけないことをまとめ、毎日確認していました。そのときにまとめたものを記事にしたものがあるので、よかったら参考にしてみてください。

www.artbook2020.com

 

勉強のポイント二つ目はきちんと手を動かすことです。

これは簿記にも共通していえることですが、問題と解答をただ眺めるのではなく、きちんと計算問題では電卓を実際使用して答えを出すことが大切です。

手を動かすことで能動的な学習となり、知識の定着度合いも上がります。また電卓は日々使っていくことでスピードを上げることができます。本番で時間切れになることがないよう、電卓にも慣れておきましょう。

 

 

 

 

村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』【感想】

オススメ度:★★★★★

歴史は消すことも、作りかえることもできないの。それはあなたという存在を殺すのと同じだから。(p.46)

 

村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』

著者:村上春樹(1949~)

京都府京都市生れ。早稲田大学第一文学部卒業。1979年『風の声を聴け』で群像新人賞を受賞しデビュー。1987年に発表した『ノルウェイの森』は上下巻1000万部のベストセラーとなり、村上春樹ブームが起こった。2006年にはフランツ・カフカ賞をアジア圏で初めて受賞。主な作品に『海辺のカフカ』『1Q84 』などがある。

 

あらすじ

多崎つくるは大学二年生の7月、突如として高校時代の5人組でつくられた、小さな美しい共同体から絶縁をうけた。その共同体ではつくる以外が名前に色を含んでおり、彼らはお互いを色で呼び合っていた。高校卒業後は色のつく4人は地元名古屋に残り、つくるだけが上京していた。凄まじい喪失感と希死念慮を経て、生まれ変わったつくるは卒業後、鉄道の駅をつくる仕事に就く。

月日が流れ、36歳になったつくるは2歳年上の沙羅という恋人ができる。親密な関係になった二人だったが、沙羅はつくるに「あなたの心には問題がある。」と言い、過去を清算するように勧める。つくるは沙羅の協力のもと、かつての友人のいる名古屋、そしてフィンランドを訪れ共同体の過去と向き合っていく。

 

感想

村上春樹の作品の好きなところは、映画を見るのと同じテンポで読めるのとです。これは速く読むことができるという意味ではなく、読みながら浮かんでくる情景のスピードがうまく作られた映画のようで、読んでいて大変心地がよいのです。

シーンが切り替わるタイミングも絶妙で、一度頭を整理して心を落ち着かせたいというタイミングで切り替わります。もちろん構成だけでなく表現力もすばらしく、終盤でつくるとクロがフィンランドで再開し、ゆっくりと話をするシーンでは1ページめくる度に大きく息を吐きました。それほどの緊迫感がありました。

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この作品の中で印象的な役割を果たすフランツ・リストの「ル・マル・デュ・ペイ」という曲があります。この曲は『巡礼の年 第1年:スイス』という曲集に収められている作品です。

私は作中で登場した作品や絵画を確認するのが癖なので、「ル・マル・デュ・ペイ」も作中で登場してすぐに探して聞いてみました。

もの寂しい旋律のなかに、どこか不安定さや物憂げさが感じられます。多くのクラシック音楽は寂しさと同時に優しさや温もりが感じられるのに対し、「ル・マル・デュ・ペイ」は不安になるような流れで、どちらかと言えば心地悪い印象でした。この時は聞いた後で口直しとして「英雄ポロネーズ」を聞いて落ち着きました。正直に書けば口直ししなければいけないほど好きではない曲でした。

あまりいい印象のなかったこの曲でしたが、本を全て読んでから再び聞くと不思議と違った印象を受けました。最初に聞いたときには不穏な曲というだけでしたが、改めて聞くと長い間つらい過去を心の奥底に封じ込め続けたつくるの心と曲の印象がリンクして、少しだけですが「理解できた」気がしました。