オススメ度:★★★★★★
つまりプロジェクトというのは、一種の「作品」だということです。(p.85)
山口周『外資系コンサルが教える プロジェクトマネジメント』
本書のエッセンス
・PMとはPJTという作品をつくるこの上なく面白い仕事
・炎上しないプロジェクトには特徴がある
・PJTの成功基準は期待値を超えたかでありPMが全結果を背負う
炎上しないプロジェクトの特徴
山口氏はこれまでプロジェクトで炎上したことがないという。
その秘密はプロジェクトの"目利き"にある。
山口氏の目利きによれば、炎上しない(あるいはしないために必要な要素として)プロジェクトには以下のような特徴・工夫がある。
② 質・量ともにリソースに余裕がある(期待値)
③ 円滑なコミュニーケーションが図られている
目的は明確か
目的が不明確なプロジェクトはポシャる可能性が高い(p.15)
筆者がこの本の冒頭に置き、最もプロジェクトにおいて重要な要素だと思われるのが、「目的」である。
目的が明確かつ共有されていることは、プロジェクト運営における複数の利点に関わってくる。
まず一つ目は迂回策をオプションとして持てる点。
目的が明確になっていると、プロジェクトの途中で障害が発生した場合に迂回路をとることができる。手段が目的化したプロジェクトでは別の手段に切り替えることができず行き詰ってしまう。
二つ目はメンバーが意思決定する際の羅針盤になること。
メンバーが個々の問題に対応するにあたり、目的の共有がなされていない場合方向感を統一できない。このような状況では、メンバーの決断は経験や肌感にゆだねられることになり、PMが都度方向感の確認を行わねばならない。
三つ目はメンバーのモチベーションに作用すること。意義がない仕事に情熱を見出すことは難しい。
目的を明確化しメンバー間の間に定着させることは、プロジェクトリーダーのプロジェクト全体を通して重要な仕事である。また目的を読み誤らないよう、プロジェクトオーナーと認識合わせを行い言質を取っておくこともまたポイントになる。
期待値をコントロールする
筆者は本書の中で繰り返し期待値コントールに触れている。
なぜこれだけ期待値を重視するかと言えば、期待値はプロジェクトの成功に関わる重要な要素だからである。
プロジェクトの成功とは何かという問いに対し、筆者は
結論から言えば、関係者の期待値よりも高い結果に終われば「成功」であり、関係者の期待値よりも低い結果に終われば「失敗」なのです。(p.72)
と答えている。
つまり期待値のコントロールはプロジェクト間を通して常に気を配っておく必要がある。
理想的な期待値の推移としては、始め期待値の低いところからスタートし、進行するにしたがって徐々に上がっていき、最終成果物が初期の期待を超えるところに着地するのが望ましい。
そのため初期段階ではプロジェクトオーナーの期待値が上がり過ぎないように努め、懸念点が場合にはなるべく期待値が下がるように早い段階で展開し、突然「やはり無理でした」とならないことが全体としても個人の評価の上でも大切である。
プロジェクトの成功だけでなく、PMとしてプロジェクト運営を楽しむ(自由に取り組む)ためにも期待値コントロールは大切である。
プロジェクトの進捗に不信感を持つと、マイクロマネジメントされたり過度な報告を求まれる可能性がある。プロジェクトの主導権を侵害されずに進めていくためには「あそこのプロジェクトは大丈夫だ」という安心感のイメージを序盤に植え付けておくことが重要である。
とりわけプロジェクト序盤において「貯金」をつくることは、ステークホルダーからの信頼の獲得のために有用である。
最初期のミーティングでは期待値を超え、「貯金」をつくる。(p.84)
期待値をコントロールする上でポイントとなるのが、「期間」「リソース」「成果物」の3点である。これらの見積を誤ると、相手の期待値とのズレが生じる。
こと「期間」「リソース」について、筆者はギリギリの1.5倍で見積もるようにしているという。
筆者の場合、基本的に「ギリギリこれだけあれば大丈夫だろう」という見積に対し、だいたい1.5倍程度を提示します。(p.67)
筆者は別の章でもリソースについて言及しており、人的リソースでいえば100%では不十分で、必ず100%超の状態でプロジェクトに臨むよう説いている。
プロジェクトメンバーの質と量が、プロジェクトが要求する水準に対しちょうど100%だと思われる時は、それをすんなり受け入れてしまってはいけません。「このメンバーでは戦えません。ぜひ○○さんをください」と交渉しなければならないのです。(p.25)
なぜここまで人的リソースに執着する必要があるのか。もっと言えば人的リソースに限らず自分のプロジェクト成功のために"わがまま"を通していかなければならないのか。それはひとえに、成功も失敗もあらゆるプロジェクトの結果がリーダーに帰属するからである。
成功も失敗も、リーダーの評価になる(p.25)
そうなったとき、メンバーに不足があったためにプロジェクトが上手くいきませんでしたは後からは通らない。プロジェクト発進の段階でプロジェクトメンバーの能力がプロジェクト遂行に対し100%以下であるならば(未満でなく以下)、多少言いにくいところがあろうとも上司にメンバー追加を要請せねばならない。
メンバー間のコミュニケーション
チームの中で流通する情報量が減ると、必ずといっていいほど、プロジェクトは危険な状況に陥ります。(p.103)
チーム内での情報流通量は、とりわけ大きく複雑なプロジェクトにおいて成功を左右する要素となる。情報流通量が少ないということは、話しにくい状況があることを意味している。小さくても重要な情報が共有されなければ、船に空いた小さな穴のように全体を飲み込んでいく。
話難さの原因は、情報を伝えたときの相手の反応が読めないことに起因する。長く一緒に働いている相手であれば、この情報を伝えたときどんな反応が返ってくるか想像がつく。
しかしまだ関係が構築できていない段階においては、反応の読めなさから情報伝達を差し控える可能性がありうる。
これを防ぐためにはプロジェクトの序盤において、「何を言っても否定されない」という前提を徹底させ、心理的安全を確保することが重要である。
また意見に限らず、メンバーが持つちょっとした違和感も早め早めに共有してもらうことが、後々のプロジェクト事故を防ぐ対策になる。
チーム内の話からは少し離れるが、プロジェクトに際し現場に協力を仰ぐ場合にはプロジェクトチームと現場は敵対しがちであり、またオーナーについても現場からの苦情を受けプロジェクトチームに圧をかけるような悪い相互関係が発生しがちである。
これを関係性の矢印方向を逆転させ、オーナーから現場に協力するよう圧をかけてもらい、現場がプロジェクトチームに助けを請う関係性がプロジェクト運営の上で望ましい。
感想
そのページを見てもクリティカルで目から鱗の連続であった。
本記事ではまとめなかったが、本書ではリーダーシップ論についてもページを割いて解説している。
この分野について解くに印象に残っているのが、下の2フレーズである。
リーダーシップは「嫌われること」と表裏一体の関係にあります。(p.175)
皆から自然とリーダーとされる人には、何か共通の特徴があるのでしょうか?
(中略)結局分かったのは「一番先に話し始めた人」だということです。(p.181)
リーダーとは何かということが端的に表されておりかつリーダーの素質を「なんだ、そんなことなのか」という一言で示している。
この「なんだ、そんなことなのか」という感覚がとても重要で、これまで複雑怪奇であったリーダーという幻想が一瞬にして小動物に生まれ変わったかのような感動を覚えた。
何より本書で衝撃を受けたのが、プロジェクトマネジメント自体のイメージである。
プロジェクトマネジメントとはこれまで単なる管理の仕事だと思っていたが、自分の作品だと視点を変えるだけでこんなにもワクワクするものだとわかった。
プロジェクトマネジャーはとても楽しい仕事です。なぜ楽しいかというと、そのプロジェクトのオーナーシップを持てるからです。ゴールを描いて、そこに至るルートを設計し、チームの体制をデザインする。実はこれは建築家や映画監督がやっていることと同じで、つまりプロジェクトというのは、一種の「作品」だということです。(p.85)
ここの文章だけでも、この本を読む価値があったと思える。