オススメ度:★★★★☆
ガラパゴスとは、スペイン語で「ゾウガメの」という意味だ。ガラパゴスゾウガメとは、シュールな名前だ。(p.374)
川上和人『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』
鳥類学者である川上和人氏が、鳥類学の知見をもとに恐竜のなぞに迫る科学エッセイ。
今作もエンジン全開
久々に恐竜展でも見に行くかという話になり、モチベーションを上げる意味で前から気になっていたこの本を読むことにした。
ちなみに恐竜展はこの本をチンタラ読み過ぎたため開催期間が終わってしまい、結局上野の国立科学博物館で海の展示を見てきた。これはこれで面白かった。
著者の川上和人氏は『鳥類学者だからって鳥が好きだと思うなよ』で一躍有名になった鳥類学者で、その専門家としての知識もさることながら、軽快でユーモアあふれる文体で人気を博している。
『鳥類学者だからって鳥が好きだと思うなよ』の感想は以下より。
さてこの本の筆者のスタンスだが、「はじめに」の中では大変謙虚な姿勢が示されている。
自分に恐竜の知見があるわけではないが、恐竜が鳥類の祖先であることが明らかになったことから、鳥類学者である自分が恐竜学の軒先に入ることは許されるのではないかというものだ。
私はあくまでも現生鳥類を真摯に研究する一鳥類学者である。…むろん、恐竜学に精通していないと胸を張って公言できる…あくまでも、鳥の研究者が現生鳥類の形態や生態を介して恐竜の生活をプロファイリングした御伽話だと、覚悟して読んで欲しい。いうまでもないが、この本は恐竜学に対する挑戦状ではない。身の程知らずのラブレターである。(p.7)
一応このように下からの姿勢でそろりそろりと恐竜学に歩み寄っているが、章を追うごとに段々とヒートアップし、手に汗握りながら原稿が書かれたことが想像できる。
印象に残った箇所
ここからは読んでいて印象に残った箇所を紹介する。
鳥たらしめるもの
鳥が持つ特徴はたくさんある。くちばしや翼、空を飛ぶことなんかがそれにあたる。
しかしこれらの特徴を持つから鳥だと言えるわけではないし、また逆にこれらの特徴を持つ鳥以外の動物もいる。例えば、哺乳類のカモノハシはくちばし持ち、また同じ哺乳類の蝙蝠は翼をもつ。
では鳥を鳥たらしめる最大の特徴は何であろうか。
鳥を鳥たらしめているのは、何を隠そう羽毛である。…(中略)…羽毛を持たない鳥は存在しない。(p.111)
意外にも、その答えは羽毛にあった。
あの温かい布団もすべて鳥類のおかげだと思うと、鳥に感謝してもしきれない。
生存者バイアス
野生生物にとって次世代を残すことは至上の命題であり、そのために生きているといっても過言ではない。というか、次世代を残すことができた種のみが現代に残っているわけで、いかに効率よく資産を残すかということは、種の存続を左右する重大事なのだ。(p.305)
動物はみな自分の種を保存していくことを目的としている。私はずっとなぜ子孫を残すことを目的に持っているのか意味の方から追いかけ考えていたが、その答えは単純明快だった。
ただ子孫を残すものだけが残っているというだけであった。
考えてみれば当たり前のことで、むしろ気付かなかった方がおかしいくらいなのだが、気付けなかった私からすると読んだとき電気が流れるような衝撃があった。
恐竜というロマン
恐竜はいつも男子の憧れであり、ロマンである。
なぜ私たちは、こんなにも恐竜に熱狂してきたのだろうか。…化石発掘を推し進める原動力は、ひたすら人間の好奇心である。(p.43)
私も小さいころ恐竜の図鑑を読み、巨大なティラノレックスが現実にいたらどんなにうれしいことかと考えた。
なぜ恐竜は世界中の人々を興奮させ、引き寄せ続けるのだろうか。
恐竜は、魔性の女である。私たちの心をグッとわしづかみにするのは、じらしてやまない究極のチラリズムだ。…(中略)…化石にすべてが記録されていないことが、恐竜が備える最大の武器と改めて気づかされた。(p.345)
そうなのだ、例えどんなに発掘が進もうとも、例えどんなに科学が進もうとも、絶滅してしまった恐竜の全容をとらえきることはできない。
常に謎を残しながらも、日々新たな発見があるこの「チラリズム」こそがロマンであり、人々を引き寄せ続ける。
私に子どもができ、その子どもが恐竜の図鑑を読むようになった時、その図鑑に絵が返れている恐竜のイメージは私が知るそれとは全くことなるものになっているだろう。
それでもきっと、私の子どももまた同じように恐竜に憧れを抱くに違いない。