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【絵画の解説】マネ「フォリー・ベルジェールのバー」【鑑賞】

マネ晩年の傑作と称される「フォリー・ベルジェールのバー」。

マネがこの絵を描いたのは彼の死の前年で、すでに梅毒による足の壊疽が進みとてもつらい状況でした。

 

この絵をよく見ていると鏡に映る像に違和感を覚えると思います。この記事では鏡に映る像の秘密を明らかにし、この絵画が傑作である所以をわかりやすく解説します。

 

マネ「フォリー・ベルジェールのバー」を理解するポイント

・浮かび上がるような人物描写
・実は科学的な鏡に映った像
・フォリー・ベルジェールのバーメイドは売春婦

 

「フォリー・ベルジェールのバー」がマネ最晩年の傑作である理由とは

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「フォリー・ベルジェールのバー」 1882年 コートールド美術館

 

「フォリー・ベルジェールのバー」はマネの人生において最晩年に描かれた作品で、当時批判の多かったマネの作品の中では珍しく好評でした。

 

マネは生涯で追い求めていたものが2つありました。1つは尊敬する画家ベラスケスが得意とした、人物が浮かび上がるように描く肖像の表現です。2つ目は従来聖書や神話に限定されていたモチーフに現実を生きる人々を持ち込むことでした。

「フォリー・ベルジェールのバー」ではこの2つに見事に成功し、まさにマネの集大成とも言える傑作になりました。

 

*フォリー・ベルジェールとは
フォリー・ベルジェールとはパリにあるミュージックホールです。パリ黄金時代ともいわれる1890年代から1920年代には絶大な人気を誇りました。
内容は歌劇やパントマイムから始まり、次第にサーカスやカンガルーのボクシングなど過激なショーが行われるようになっていきました。1895年には日本の大道芸も公演を行っています。
ホール内にはバーも併設されており、マネはこのバーを描きました。

 

人間にフォーカスした背景表現

この絵を見ていると、背景が消え女性の表情に意識が集中していきます。騒々しい場面にも関わらず音は消え失せ、静寂の中で虚ろな女性の表情だけが印象に残ります。

 

「フォリー・ベルジェールのバー」は写実主義の画家であるマネらしく、計算しつくされて描かれています。この絵をみた時、多くの人は視点や意識が中央にいる女性の顔に向かうのではないでしょうか。

女性の表情にひきつけられていると次第に背景が意識から外れていき、人物だけが浮かび上がってきます。これこそがマネが狙った効果でした。

 

 マネがこのような絵画を目指すようになったのは、ある尊敬する画家の絵を見たことがきっかけでした。

 

 

マネが最も尊敬した画家ベラスケス

 マネには6年間学んだ師匠がいましたが、マネが最も尊敬し影響を受けたのはスペイン画家のベラスケスでした。

1865年のサロンで酷評を受けた後に訪れたスペイン旅行で、マネは背景を省略しわずかな影だけのみで人物を浮かび上がらせたベラスケスの画に感銘を受けます。

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ベラスケス「道化師パブロ・デ・バリャドリードの肖像」 1634年頃 プラド美術館

 

この絵を見た後マネはオマージュとして背景を省略した作品をいくつか制作しましたが、残念ながら不評に終わりました。

しかしマネの人物を浮かび上がらせる背景の探求は終わることはありませんでした。
 

 

実は写実的な鏡に映る像

この絵をみた時に背景が意識から外れていく秘密は背景、とりわけ鏡に映る像の描き方にあります。

この絵画の背景をじっくりとみていくと、なんとなくモノや人の配置に違和感を覚えると思います。正面の女性が鏡の右に寄っていたり、遠近感がいびつであったりとズレを感じると思います。 

このことがまるで中央の女性にだけピントが合っているかのような錯覚を与え、見る人の視点を中央の女性に導いているのです。

 

また一見いびつに見える鏡に映る像ですが、詳しく調べてみると実は科学的正確性を持って描かれていることが分かります。

 

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参照元:“A Bar at the Folies-Bergere” – Art A Fact

 

上の図のように実際のバーをつかってマネが描いた状況を復元すると、絵画と同じ構図が再現できることが わかります。目の前にいるように見えた女性は実は視点のやや左側に位置していたのでした。

 

マネは写実的にバーを描きながらも、見る人には背景に違和感を与えることによって女性に意識が集中させることに成功しました。

「フォリー・ベルジェールのバー」でついに、マネがベラスケスから受け継ぎ研究していた、人物を空気で包みながら浮かび上がらせることが完成をむかえたのでした。

 

 

アンニュイな表情の女性の正体

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フォリー・ベルジェールは上記で紹介したとおりミュージックホールでした。

しかしながらフォリー・ベルジェールのバーは単なるバーではなく、売春婦を買うことのできる場所としても有名でした。

 

急劇な経済発展を遂げた1860年代のフランスでは、その代償として経済格差が広がっていました。当時のフランス女性は結婚するか娼婦になるか安い給料でお針子をするかしか道がなく、多くの女性が娼婦に流れていました。

バーメイドも「酒と性の売り子」と呼ばれ、バーで働きながら売春婦としても生きていました。

 

賑やかなバーの中のバーメイドのアンニュイな表情は、輝かしい経済発展の裏に隠れた当時のパリの陰を反映しているのです。

 

 

おわりに

豪壮であったりダイナミックな絵ではありませんが、このように背景を知っていくととても面白い作品であることが分かります。

フォリー・ベルジェールはオープンから150年が経った今でも営業を続けているので、パリを訪れた際にはぜひ立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

 

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