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『確率思考の戦略論』【データサイエンティスト以外の統計屋の道】

オススメ度:★★★★★

仮説の数式が実際によって証明される「その瞬間」は、ドーパミン大放出の快感だったりします。(p.24)

 

森岡毅・今西聖貴『確率思考の戦略論』

 

『確率思考の戦略』というタイトル。確率とは統計の表裏の関係であるあの確率であり、戦略とはビジネスのコンテクストでの話であろう。

確率はビジネスでどのように役立つだろうか。この問いの答えを求めて、本書を読み始めた。

近年AIの急速な発展を背景に、確率統計の分野はデータサイエンスの分野で花開いてきた。言ってしまえば、確率統計でビジネス=データサイエンスくらいの論調がある。

本当にビジネスにおいて、確率統計はデータサイエンスでしか使えないのだろうか。

本書では「確率思考」という眼鏡で経済活動を見て、モデルに落とし込む数学マーケターという生き方が紹介されている。

 

確率思考

ビジネス戦略の成否は『確率』で決まっている。その確率はある程度まで操作することができる。(p.4)

確率思考とは

確率思考とはどのようなものであろうか。

ここでの確率思考とは、推測統計の考え方が近しい。

実現値の背後には、その実現値を規定する確率分布が存在するのと同じように、表面化する現象の背景には本質が存在する。標本と母集団の関係に言い換えてもよい。

 

数学マーケターの仮設思考

数学マーケターの仕事は現象にとらわれずに、背後の本質を正しくとらえることである。彼らはこの作業にひたすら情熱を注ぐ、そして仮説を立て、深掘りし、本質を数理モデルへと落とし込んでいく。

仮説思考自体はビジネス全般で必要となるスキルだが、これをモデル(数式)へ落とし込む部分に数学マーケターとしての特異性がある。

私の場合は、仮説を数式で表現しているだけです。その数式から予測値を導いて、予測数値(仮説)が実際どの程度合致しているかを観測するのです。予実がぴったり合っていたときには、その仮説が正しい可能性が正しい可能性が高いのです。このようにして、ビジネスにおける知の地平線を広げていく、それが「数学マーケター」のアプローチです。仮説の数式が実際によって証明される「その瞬間」は、ドーパミン大放出の快感だったりします。(p.24)

筆者が数学マーケティングにただならぬ関心と情熱を持っていることがうかがえる。熱量がダイレクトに伝わってくる文章で、実際これを読みなんて面白い仕事なんだろうと俄然興味が湧いた。

 

 市場構造を掴め

確率思考のもとでは、経済活動の結果(標本)は市場構造(本質)に規定される。したがって市場構造を掴むことがビジネスにおける勝率を上げることにつながる

では具体的に市場構造とはどのようなものであろうか。

市場構造とは、その市場における全体と人々のやり方。そして市場構造は消費者のプリファレンス(選好)に規定される。プリファレンスはブランド・エクイティー、価格、製品パフォーマンスによって決まる。(p.22)

マーケティングの分野において、プリファレンスこそが市場構造の数理モデルの最も重要な定数である。そのためプリファレンスを意識しビジネス活動していく必要がある。

本書でもこのプリファレンスの解説に多くの紙面が割かれている。

 

熱いリーダー論

確率思考の本論からは逸れるが、この本でもっとも迫力があり感銘を受けたのが以下の文章である。

現実問題として、船全体を沈ませないためには、「正しくて厳しい道」を歩まなくてはいけないのです。誰かが、全体のためにやらなねばならないのです。その痛い仕事を、誰かがやらねばならない。その組織の中に、そのババを引く人がいるかどうか?痛みを引き受けて矢面に立つ覚悟と能力のある人間がいるかどうか?そのほんの一握りの人間のみを「リーダー」と呼ぶのだと思います。(p.128)

この力強い文章からは森岡さんが数多の修羅場・地獄を見てきたことをうかがえます。その逆境の中でも弁慶のように立ち続け、コミットメントする圧倒的な意思こそがトップに立つためには必要なのです。

 

仮説思考×数理モデルという最高の分野も森岡さんのビジネスマンとしてのマインドセットどちらも大変参考になる良本だった。