オススメ度:★★★★★
- そうなんだよ、人は皆、何かを待っている。
- あなたは何を?
- 君だよ、君を待っている。
『ターミナル』
あらすじ
共産圏の小国クラコウジアからJFK空港にはるばる来た一人の男、ナボルスキー。
到着後、なぜか入国審査にはじかれてしまう。実は出国後に軍事クーデターが発生し、母国が消失したのだ。
法の隙間に落ちた彼は、入国することも帰国することもできず、乗り継ぎロビーの待たされる。
英語もできない彼は乗り継ぎロビーで無料のクラッカーを齧り、カートを集めて25セントを稼いで食い繋ぐ。
彼は国境警備局に目の上のたんこぶのように扱われながらも、清掃員や職員、警備員やCAのアメリアと親しくなり交流を広げていく。
アメリアに心奪われた彼は彼女のために働き、スーツを新調する。また仲間たちは2人のために特設のディナー会場をつくり、二人は近づいていく。
しばらくして、再びフライトから帰ってきたアメリアに彼は贈り物をする。そして彼がNYに来た目的が、亡き父との約束でジャズミュージシャンに会うためだと明かす。
月日が流れ、クラコウジアでの戦争が終結。国境警備局は直ちに帰国を命じ、応じない場合には空港の仲間たちをしょっぴくと脅す。
彼は仲間たちを守るため帰国を余儀なくされるが、真実を知った清掃員グプタが身体を張って帰国の便を止める。
そしてこの姿を見たナボルスキーは仲間たちに背中を押され、これまで一度も見ることのなかったニューヨークの地を踏む決意をする。
感想
私が好きな映画にはいくつかの共通項がある。「シリアスな笑い」と「苦境に抗う姿」、そして「素晴らしい音楽」である。
この映画はそのうちの前者のふたつを、完璧な形で体現している。
まずシリアスな笑いとして印象に残っているのが、空港から出られないナボルスキーのため、仲間たちがCAアメリアとのディナーの場を空港内に用意する。
一生懸命な仲間たちだが、実態は清掃員や職員、警備員なので、次々ボロが出る。
職員は雑にワインを注ぎ、インド人の清掃員はフォーマルな場に不釣り合いな曲芸を披露する。本人たちが真剣になればなるほど滑稽にみえる。
シリアスな笑いは塩梅を間違えると物語を陳腐にしてしまう。スピルバーグはこの辺のバランス感覚が卓越しているのだと感じた。
そして後者が、苦境に抗う姿である。
この映画のメインは、言葉も通じぬ異国の地、しかも空港から一歩も出られないという苦境の中で、腐ったり自暴自棄にならずその中で幸せを見つけ、前に進み続けるナボルスキーの姿である。
このような超人的な姿勢は見るものに勇気を与える。
物語の最後、苦境を乗り越え先に進む姿は、まるで光の中に消えていくようで感動的であった。