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【数学読みもの】ホワイトヘッド『数学入門』

 

オススメ度:★★★★☆

ホワイトヘッド『数学入門』



 

美術館と数学読みものの共通点

先日、丸の内にある三菱一号館美術館で開催されていた「アール・デコとモード」展へ行った。

普段だと美術館を訪れる目的はもっぱら西洋絵画が多いけれど、今年はなぜかいろいろの本の中で「アール・デコ」というキーワードに遭遇することが多く、頭の片隅に蓄積したこの言葉に呼び寄せられるように一人でふらりと訪れた。

三菱一号館美術館の前は幾度となく通りその存在についてはよく知っていたものの、実際に中に入るのはこれが初めてである。なかは外観にも劣らず荘厳な雰囲気で、財閥の力と歴史をまざまざと感じさせられた。

肝心の展示も想像以上に興味を惹かれ、特にシャネルとランバンのコートやイブニングドレスが私好みですてきであった。浮かれて帰りに図録を購入して買えるほどには満足できた。

 

絵画にしろファッションにしろ、展示の面白いところは実物が見られるだけでなく、その解説にあると思う。もちろん第一義的にはホンモノを己の感性で感ずるところにあるのだけれども、それだけでは展示の面白みは片手落ちだろう。

展示物を右脳で捉えつつ、論理立って記述されたその背景や価値を左脳で知ることで、脳が感性と理性の両面から刺激される。このバランスこそが展示の醍醐味だと私は考えている。

 

さて、紹介する本と関係ないところから話をスタートしたのは、数学の読みものの面白さというのが、この展示の面白さと似ているのではないかと思ったためである。

数学の読みものとは数学の定理や法則を中心に、その発見の歴史的背景や科学における活用価値、また数学の分野間の関係などについて書かれた本である。この『数学入門』もその一つで、高名な数学者であるホワイトヘッドが算数から高校数学レベルまでの内容がどのように発展的つながりをもっているかを解説した本になっている。

発行されたのは1911年と100年以上も前で、だれもが数学を学んだわけではない時代に、数学に興味を持たせ、どのように学びに取り組んでいけばよいかをたいへんわかりやすく指南している。

 

数学の面白さを伝える本ということで、参考書のように演習問題が並んでいるわけではないが、随所に数学の公式やグラフが記載されている。

一見するとなんの変哲のない公式やグラフも、一歩引いてフラットな目で見てみるとやはり洗練された美しさがある。それは普遍性や抽象性が生む美であり、もっとも実用的でありかつ本質的であることを示している。

これらの公式やグラフが芸術であるならば、それを説明した地の文はまるで美術館の展示の解説ではないだろうか。この美術館の展示との共通点に、数学読みものの面白さがあるのではないかとふと気が付いた。

 

五感に関する発見

本全体、読みものとしての面白さを感じつつ、この本からは発見も得られた。

科学は、リンゴの記述を最終的には分子の位置と運動に分析しようとします。(p.21)

それは数学の抽象性ゆえに科学に生かされているという文脈で出てきたこの文書で、ここから「五感はすべて、空間の中の分子の位置関係を把握しているにすぎない」ことに気が付かされた。

まったく異なる感覚の束であると考えていた見る・聞く・触れる・香る・味わうといったこれらの感覚が、まさかまったく同じ対象を知覚していただけだったとは、生きてきてここで初めて気が付きまあまあの衝撃を受けた。

こういった本筋から外れた発見も、また読書の楽しみである。