本と絵画とリベラルアーツ

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【本の紹介】記事にしなかった本たち(2025年下半期)

今年は多く本を読んだけれど、あまり振り返る時間が取れなかった。読んだ本も読み返さなければ記憶の奥底の澱になって忘れ去られてしまう。

本を読み返す習慣をつけるためには、やはりきれいな本棚を持っていることが重要かと思う。何の本を読んだかをぱっと見で分かるようになると、沈んだ記憶がふわりと浮かび上がってきて海馬にこすりつけられていく。

いまは本棚からはみ出した本が無造作に積み重ねられているだけなので、早急に本棚を用意したい。

 

記事にしなかった本たち(2025年下半期)

 

 

宿野かほる『ルビンの壺が割れた』

オススメ度:★★★★☆

水谷一馬はフェイスブックでかつての恋人である未帆子を見つけ、メッセージを送る。初めのメッセージに返信はなかったが、何度かの一馬の一方的なメッセージのあと未帆子から返信があった。

ほほえましいメッセージは衝撃の事実の応酬へと変貌していく。

 

少年漫画のような引きとテンポで次々に読まされてしまった。奇抜なスタイルでありながら、最後まで失速することなく楽しませてくれるちょうどいい長さと内容だった。

 

重松清『答えは風の中』

オススメ度:★★★★☆

大人になると子どものときの悩みなんて忘れてしまったり、些細なことだったように思てしまうけれど、子どもの心にも白とも黒とも取れないモヤモヤとした気持ちがあることを思い出させてくれる。
コロナ禍における命の優先順位など難しい問題も、子どもと目線を合わせることで子どもたちが自分ごととして捉えられるように工夫されているなと思った。
…お年寄りのほうがわたしの知り合いで、子どものほうは赤の他人だったら…(p.44)
 
人と違うことに悩む『いちばんきれいな空』という短編がある。いちばんきれいな空を絵に描くといえ美術の課題で、自分だけが「くもり」をきれいな空だと思っていることに悩む少年を見て、ふと自分が小学校の頃「北風の太陽」の絵を描く時間に自分だけが北風をメインで描いたことを思い出した。

 

 

カルロ・ロヴェッリ『時間は存在しない』

オススメ度:★★★★☆

高校物理以降、新しく得られる物理の知識は高度すぎたり身近でなかったりと、子どもの頃新しい知識に触れた時のワクワクから遠ざかっていた。この本は高度な内容ながら地に降りた説明となっており、昔と同じように好奇心を刺激してくれる。
特に感動したのが、引力の仕組みと時間の対称性の議論だ。
引力の仕組み
物体は周囲の時間を減速させ、その速度の違いが引力を生む。
時間の対称性
物理の公式において、時間の方向の概念があるのは熱力学だけである。
温度が違う気体や液体を混ぜ合わせると、次第に温度が均一になっていく。しかし均一な温度の状態から別の温度の状態に分かれていくことはない。
エントロピー
熱力学だけが時間的方向性、不可逆性を示す、しかしこれは世界を「荒い粒度」で見た時の話しで、分子レベルで観測すると時間的方向性は関係なくなる。

 

辻村深月『嚙みあわない会話と、ある過去について』

オススメ度:★★★★★

人気アイドルとなった、かつての小学校の教え子。印象は薄かったものの、楽しみにしていた再開の先には…『パッとしない子』、地味で嫌われていた同級生がカリスマ塾経営者となった。軽い気持ちで申し入れた地元雑誌のインタビューは思わぬ方向に…『早穂とゆかり』をはじめとする4本を収録した短編集。

短編でここまで肝を冷やされるとは思わなかった。

日常を描いた小説を読んでいるつもりが、途中からは怪談話を読んでいるようだった。

内臓を直接さわるべきでないように、人間の心情も裸にしてはならない。まるで心臓を直接なぞられているかのように、ゾクゾクした小説だった。

 

 

田中渓『億までの人 億からの人』

オススメ度:★★★☆☆

ゴールドマン・サックスで新卒から17年勤めあげた田中渓による、お金持ちのマインドや習慣を紹介した本。本よりも先に映像メディアで田中渓を知り、気になり購入した。

田中渓のストイックな生活と超人的なマインドを見ていたので、若干物足りなさを感じた。初めての書籍ということで「ゴールドマン・サックス出身」としての内容になっていたが、もっと田中渓本人の狂気を見たいなと思った。

時間の使い方や信頼貯金の話はタメになった。

 

 

 延江浩『松本隆 言葉の教室』

オススメ度:★★★☆☆

名作詞家 松本隆のインタビューを延江浩が本にまとめたもの。

本の中では、松本が手がけた数々の名作が紹介されている。あの作品も、この作品も松本作詞だったのかと何度も驚かされた。

この詩はここの景色をイメージしていてなど、裏話も多く聞くことができたのも面白かった。

話に出てくるメンバーも細野晴臣、大滝詠一、松田聖子、松任谷由美と豪華すぎるほど豪華で、音楽シーンの黄金期の中心を生きた人だったのだと改めて実感させられた。

 

 

吉田恵里香『恋せぬ二人』

オススメ度:★★★★☆

NHKドラマの脚本を小説に仕立て直した本。

アロマンティック・アセクシャルな恋せぬ二人が、恋愛を介さず家族になっていく模様を描いた作品。

オーソドックスな恋愛でないゆえの周囲の理解の無さや、個人の迷いを経ながら一歩ずつ前へ進んでいく。

役割を登場人物にそのまま投影して動かしているところがドラマ的技法なんだろうなと理解しつつ、小説としての読み味は後一歩物足りなかさを感じた。

一方で内容は新鮮で、特に同じアロマンティック・アセクシャルでも個人によって思いや感じ方はそれぞれであり、一括りにできないというところがよく伝わってきた。

 

 

マルクス・シドニウス・ファルクス『奴隷のしつけ方』

オススメ度:★★★☆☆

始めは面白い帝王学として使えるかなと思い読み始めた。いつか自分が部下などを使役するときに、マネジメント方法の一つとして使えると考えたからだ。

しかししばらく読んで、何かおかしいと気付いた。どうも使う側の立場というよりも、使われる立場からばかり読んでしまう。書いてある奴隷の活用術が、会社から自分にされていることと同じであったのだ。

奴隷がいったん仕事を覚えたら、そこからは仕事に応じて必要な量の食事を与えればいい。必要以上に与えると怠け癖がつくだけだ。(p.66)

とりわけ働きがよかった者たちに休暇を与えるというのも効果的である。(p.71)

第二に、役割分担を明確にするといい。分担が明確になれば責任の所在も明らかになる。(中略)仕事が分担されず、誰もが同じことをやるとしたら、誰も責任を感じないだろう。(p.71)

 

適切な報酬を与えよ、ときに休暇を与えよ、責任を明確にせよ。これらはどれも会社が従業員をコントロールするためにつかう手法であり、人間のマネジメントというものがいかに普遍的なスキルであることがうかがえる。

それと同時に、自分が現代の奴隷なんだなと思うとやや悲しい気持ちにもなる。そういえばふと、奴隷は解放されるが、私たちは解放されないことを思い出した。そう思うとますます悲しい気持ちになった。

 

奴隷のつかい方は労働者だけでなく、移民政策を考える上でも参考になる。

古代ローマでは戦争のたびにたくさんの奴隷を手に入れ、領内に引き入れてきた。その結果、もとからいた民族とは異なる民族、それもルーツの異なる複数の民族が入り混じる形となった。

このようなダイナミズムのなかでは、従来とは異なる統制方法が求められる。

古代ローマの奴隷制度は、大勢の人間を外部からローマ社会に取り込むための一つの仕組みでした。ただしローマ人たちはただやみくもに取り込んだのではなく、ある種の品質管理を試み、好ましくない人々がローマ市民になるのを防ごうとしました。(p.233)

 

奴隷が増えることは労働力の増加につながった。しかし当然よい側面だけでなく、負の側面も発生する。異文化が入り混じれば秩序が崩壊し、落伍者も生まれる。そのためローマ市民たちはいかにしてローマの秩序を保つか苦心していた。

当時のローマには、主人の裁量で奴隷を開放する制度があった。主人たちは解放した奴隷たちが自分たちに感謝し、生涯尽くしてくれるものだと考えていたがそうはならなかった。ハングリー精神の鍛えられた解放された奴隷たちは、自分らが成り上がるため手段を選ばなかった。

 

 

 額賀澪『小説家デビュー1年目の教科書』

オススメ度:★★★☆☆

「小説家になりたて」という珍しい層に向けて書かれた新書。

2作目に向けた活動や、担当編集者や他の小説家との関わり方など新人小説家が悩むポイントが解説されている。

繰り返しコミュニケーションはしっかり取ろうねとアドバイスしており、作家になろうという人種の性質が窺い知れて面白かった。

お金の話はやはりシビアだった。専業の作家さんたちは本当にすごいのだと改めて感じた。

 

 

スラヴォイ・ジジェク『「進歩」を疑う』

オススメ度:★★☆☆☆

マルクス・ガブリエルと並んで現代哲学のなかでも際立つ存在であるジジェク。

ずっと気になってはいたが難解と聞いており敬遠していた。今回満を辞して挑戦した。しかしびっくりするほど分からなかった。バッテリィズ風に言えば「全部読めたのに」と思いながらずっと読んでいた。

 

政治的な格差や経済的な搾取などから生じる差異、すなわち政治的差異が、「生活様式」の違い、すなわち「文化的」差異へと中和され、自然とそこにあるもの、乗り越えられられないもの、単に「許容」すべきものになったのだ。(p.20)

随所随所読み取れる箇所からはウィットにとんだ示唆が得られる。

上記では本来は政治がコントロールできる経済格差を、「ずっとそうだったからこれからもそうだよね」という文化とみなし、修正不要のレッテルを貼ってしまったことを示している。これは面白い。

 

大半の人びとが騙されていると言うよりも、むしろ大半の人びとはそもそも関心をもっていない。比較的安定した暮らしがこれからも変わらず続かどうかが、一番の関心ごとだからだ。多数は、自分たちで実際にものごとを決めるような、本当の意味での民主主義を望んでいない。自由に投票することで民主主義の体裁を保ちつつも、信頼できる御上の権威から選択肢を与えられ、どこへ投票するのが正しいのかを同時に教えてもらうことを人びとは求めている。(p.129-130)

国民は群衆に成り下がってしまった。

 

 

石田ゆうすけ『行かずに死ねるか!』

オススメ度:★★★★★

運命を変えてやる、自分の力で変えてやるわ!(p.19)

脱サラし自転車で7年半をかけて世界一周した人物のエッセイ。

読むと好奇心が刺激され「自分もいつか世界を見たい!」という思いがフツフツと腹の底から湧いてくる。読むタイミングによってはその勢いのまま仕事を辞めてしまいそうな気もした。

沢木耕太郎はバスで世界を回り、リーマントラベラーこと東松寛文は週末を利用して世界を回り、この本の著者である石田ゆうすけは自転車での世界一周を成し遂げた。

どれもそれぞれの良さがあり、どれが正解ということもない。いつか自分にあった方法で世界を見てみたいなと強く感じた。

石田ゆうすけが最も衝撃を受けたティカルはいつか見に行きたい。いざ行く時のモチベーションになるよう、ティカルはネットでまだ写真を見ずに大事に取っておいてある。

 

 

秋山仁『数学者に「終活」という解はない』

オススメ度:★★★★☆

数学者 秋山仁の自伝的エッセイ。

読んでいて、小澤征爾の『僕の音楽武者修行』を思い出した。

若い時に世界に飛び出し、がむしゃらに生きることがどんなに素晴らしいことかと思った。何歳になっても、本気で生きることで青春を感じることができる。

自分の人生がだんだんと型にハマっていくように感じていたが、まだまだ広げることができると思い出させてくれた。そのためには自分でよくよく考えて日々を生きなくてはならない。

 

 

帝国データバンク『なぜ倒産 運命の分かれ道』

オススメ度:★★★☆☆

帝国データバンクによる、話題性のある倒産をした会社の調査結果をまとめた本。

自分が会計に関わっているので、決算は神聖なものという認識が強かったが、思いの外粉飾が多いことがわかり驚いた。

 

 

野宮有『殺し屋の営業術』

オススメ度:★★★★☆

第71回江戸川乱賞をぶっちぎりで受賞した話題作。

敏腕で冷徹な営業マン・鳥居一樹がひょんなことから裏の世界に足を踏み入れ、才能を発揮していくストーリー。

主人公だけでなくライバル含めキャラが立っていて、最後までテンポ良く読むことができた。ドラマや映画向きの作品だと感じた。

文体も軽くサラッと読めるので、疲れている仕事帰りでも楽しめたのがよかった。

 

 

藤崎翔『オリエンド鈍行殺人事件』

オススメ度:★★★★☆

短編とショートショートの組み合わさった作品集。

「お決まりの」流れの話を、メタ的な視点で再解釈・構築して新たな展開に持ち込むスタイルが多かった。

筆者の藤崎翔氏はもともと芸人をしていたらしく、お決まりをひっくり返して笑いに変える流れはコントに近いのかなと感じた。

ひとつひとつの作品のクオリティが高く、それでいてスルスルと読めた。

 

 

辻村深月『嘘つきジェンガ』

オススメ度:★★★★☆

辻村深月の詐欺に関する3つの短編集。

詐欺なんて、愚かな人がひっかかるもので自分には関係ない。ましてや加担するなんて夢にも思わない。→距離が近いことを実感させられる

安心して読める

 

 

野宮有『殺し屋の営業術』4

オススメ度:★★★★☆

第71回江戸川乱賞をぶっちぎりで受賞した話題作。

敏腕で冷徹な営業マン・鳥居一樹がひょんなことから裏の世界に足を踏み入れ、才能を発揮していくストーリー。

主人公だけでなくライバル含めキャラが立っていて、最後までテンポ良く読むことができた。ドラマや映画向きの作品だと感じた。

文体も軽くサラッと読めるので、疲れている仕事帰りでも楽しめたのがよかった。

 

小栁由紀子『名画のインテリア: 拡大でみる60の室内装飾事典』

オススメ度:★★★★☆

西洋絵画に登場するインテリアが紹介された本。

やや値は張るがフルカラーで美しい本に仕上がっている。ランバンの仕事部屋やポンパドゥール夫人の絵が印象に残った。