ル・ラゴンに泊まってきた

友人らと山梨県・山中湖畔にある、フレンチレストランを併設したペンションに泊まってきた。
食事だけでなく店主のお母さんのキャラクターもすてきだったので紹介したい。
ル・ラゴンに泊まってきた

山中湖の湖畔にあるペンション、ル・ラゴン。
入り口の白い大きな扉を開けると靴箱があり、その先には広いダイニングスペースが広がっている。中に入るとすぐに明るく元気なお母さんが出迎えてくれた。
男ばかりの私たちにも初めからフルスロットルで声をかけてくれる。
「学生さんかしら」
「夕食で外国で賞を取ったワインを出すから、楽しみにしときなさい」
「夕食前にさっさとお風呂に入ってしまいないさい」
根っからのおせっかい気質のようで、この宿の空気はこのお母さんが作っているのだとすぐにわかった。
1階は全体が共有スペースになっていた。
大きなダイニングとお風呂が2つ、漫画などが置かれた休憩スペースもあった。
建物は年季が入っているがどこもキレイに維持されているのがわかる。建物全体が白を基調としており、ギリシア風の柱が高級感を演出している。一方で低めの天井や階段のつくりは昔の日本の建築物を彷彿とさせ、一つの空間に懐かしさと安心感も同居している。
ダイニングに飾られた調度品や小物もどれも素敵で、古いミシンや洋風の人形、ランプやお花がとても可愛らしかった。
廊下の壁には色紙やサインが、古いものから最近のものまでいくつもあった。
RADWIMPSの野田洋次郎や浜辺美波といった有名人が飾られている横で、同じ大きさ、目立ちやすさで合宿で泊まったであろう高校の部活や大学のサークルの色紙が飾られている。この宿が泊まる人一人一人を大事にしているのことが伺える。
お風呂はグループごとに貸切にして使うスタイルだった。お風呂にシャワーは4つあり、湯船は温泉になっている。お風呂は成人3人くらいが入れるサイズで十分な大きさだった。
2階は客室だ。
私の泊まった部屋はロフト付きの2階建ての部屋で、2階へはハシゴで上がることができる。ハシゴは足場のかなり細く、体重をかけると軋みを感じるので怖かった。
部屋のなかは簡素でベットの他には小さなテレビがあるくらいである。ほかのチェーンのホテルに慣れていると質素に感じるが、隅々まで清掃も行き届き困ることもない。
ただ水回りは部屋にはなく、外に男女別で共用の洗面所とトイレを使うようになっている。歯磨きも毎回部屋の外に出なくてはならないので、そこはちょっと不便だったが特段問題はなかった。
幸せな食事

夕食はダイニングルームで宿泊者一斉にとる珍しいスタイル。
夕食時間になると、お母さんが館内放送で準備ができたことをお知らせしてくれる。私の時は18時くらいだった。
夕食ができた知らせほど嬉しいものはない。空いていたお腹がさらに空いてくる。
席にはすでに香ばしく焼き上げられたチキンとおすすめの白ワインが並べられていた。レストランはフレンチだが、BGMはドビュッシーだった。
宿泊客みんなが席につくと、一斉に食事が始まった。お母さんがワンオペで忙しなくフロアを回りながら料理の説明と配膳を進めてくれる。
ただ食事を持ってきてくれるだけではなく、美味しい食べ方をすすめてくれるのが嬉しい。お母さんが笑顔で「絶対美味しいから食べて」と言ってくれるのもワクワクして食べる前から笑顔になれる。
この日の料理はチキンから始まり、自家製のパン、ニジマスと続く。
チキンは皮がパリパリ身は柔らかく、特製のソースとよく合った。自家製パンはフワフワで、小麦のいい匂いが漂う。ニジマスも川魚とは思えないほど臭みがなく、骨や皮も柔らかく丸々食べ切ることができた。
キッチンからは時折娘さんとお孫さんらしき男の子がせっせと料理を運び、ホールのお母さんに受け渡している。三世代経営のようで微笑ましかった。
メインはローストビーフと低温調理した地元のポークで、ボリュームがあったがソースも種類が豊富でペロリと食べ切ってしまった。
食後も自家製ミントアイスも爽やかで美味しかった。
最後に出してくれたコーヒーもシェフがこだわったものらしく、料理に合うよう朝食用のブランドとは別にわざわざ用意しているとのこと。ストロングめながらえぐみがなく、すっきりしたミントアイスとのバランスも良かった。
お母さんは最後まで席を気にかけてくれ、温かい夕食になった。席は分かれていても他のお客さんと同じペースで食事を食べ進めるのも一体感があり、大きい家族でご飯を食べてるような楽しさがあった。
朝ごはんも同様に8時ごろアナウンスが流れた。
2階の部屋の扉を開けるとトーストの香りが漂ってきて、一気にお腹が空きついお腹がなりそうになる。この時点で幸せな朝を確信させてくれる。
夕食と同じ席につくと、サンドイッチとフルーツが用意されていた。ハムやスクランブルエッグ、ラタトゥイユが挟まれたサンドイッチはボリュームたっぷりでとてもおいしかった。
コーヒーもゆっくりいただき、朝から優雅な時間を満喫できた。
夕食の様子を客としてすてきだなと思って見ていた。
あちこちのテーブルで勧められたワインを「本当に美味しい」と言って話したり、忙しいお母さんから直接手でお皿を受け取り配膳に協力したり、ニジマスをほぐすのに失敗してお母さんに「下手だねえ」と言われ笑われたり、テーブルを超えてダイニング全体がずっと温かった。
お客さんたちからお母さんに目をやると、お母さんも忙しいながらサーブを楽しんでいるように見えた。
その姿を見て、お母さんは夕食のその景色が見たくて働いているのだと確信した。
自分の自慢の宿にお客さんを泊め、一人一人と話しながら家族とつくった食事を「美味しいから食べて」とサーブする。
こんな幸せなことがあるだろうか。
廊下の壁にはかつてこのペンションで挙げられた結婚式の様子と、新郎新婦からの感謝のメッセージが掲げられていた。
きっとこの夫婦もこのペンションに泊まり、この幸せにあてられ同じように幸せな空間を作りたいと思いこの場を結婚式場に選んだに違いない。
次の日チェックアウトにむけ荷物の片付けをしていると、すでにお客さんの帰った部屋で夕食では見かけなかった孫と思われる小さな子供がフカフカのベッドに気持ちよさそうにダイブしていた。
このペンションはただ単にお客を泊めお金を稼ぐ装置ではなく、家族の家であり幸せな体現される場でもある。
普通のホテルのように回転率や利益率ばかり追いかけ、マニュアルをなぞるような接客では決して得られない、サービス業のやりがい、楽しさというものを思い出させてくれた。
完璧なサービスなんかなくても、満足感さえあれば人はまた来たいと思う。そう思わせてくれる素敵なペンションだった。



