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【普通なる人の使命について】角田光代『タラント』

オススメ度:★★★★☆

挫折したら、そうしたらまた、ちいさな私たちの使命をさがそう。(p.551)

 

角田光代『タラント』

 

 本書のエッセンス
・発展途上国ボランティアにのめりこんだ学生時代のみのり
・義足の祖父、不登校の甥、若きパラアスリート
・点と点がつながり着火する、そして情熱へ

 

感想

使命感や情熱を感じなくなったのはいつからであろうか。

学生のときは興味のあることややりたいことも沢山あったし、少しでも気になれば飛び込んで話を聞いたりしていた。学内でたまたま見かけたポスターをみてビジネスコンテストに参加したり、誰もとっていない大学院の授業をひとりで受けたりしていた。

どれもこれも強い意思をもって挑戦したことではなかったが、やっていくうちに少しずつ情熱が大きくなり、モチベーションがわき、自分が大きくなっていくのを感じていた。

 

しかし社会人になってからというものそういった情熱の火種は少しずつ小さくなっていき、勉強時間も減り、新しいことに興味を示さなくなり、目の前のことをこなすだけの小さな人間になってしまっている。

 

主人公のみのりも学生時代はなんなくから始まった発展途上国へのボランティアにのめり込んでいき、いつしか自分自身の力で誰かを助けたいという情熱をもつようになっていった。

しかし周りの環境の変化からいつしか関心を失っていき、アラフォーとなったいまではちょっとした変化や責任からも逃れようとする性格へと変わっていた。

学生時代に無邪気にもっていた志は現実に打ちのめされ、結局大きなことを成せるのは選ばれた人たちであり、その他の人間はうかつに手を出すべきではないと。

 

ではその他大勢の人間は使命や情熱とは無縁なのではあろうか。

そうではない。だれだって願望や課題感、問題意識を無意識に持ち合わせている。あとはそれが発芽するかどうかの違いだけである。点と点が繋がるだけでなく、そこに着火されて初めて使命となる。

 

みのりの中では、祖父の友人のパラアスリートの話やアンマンでの難民キャンプでの出来事が点と点として繋がっていた。そこに新聞で何気なく読んだ、ガザで負傷者が増え義肢が不足しているというニュースが飛び込んでくる。

この時の情熱の着火の表現がこの小説のなかで最もゾワっとし、なぜだか目頭が熱くなっていくのを感じた。

え、今、思ったじゃないですか。その記事見て、義足足りないんだ、って思ったじゃないですか。(p.433)

 

心のどこかで使命が自分の元にくるのをみのりは待っていた。自分なんてもうと卑下しながらも、情熱がもう一度湧き上がればなと望んでいた。もちろん自分の意思を変えて周りが動いていくことに恐怖はある。それでも人は情熱を欲しているのだ。

 

私自身情熱を感じなくなった今とてつもない喪失感とつまらなさを感じているが、またどこかで情熱や使命を取り戻せたら良いなと思った。

 

挫折したら、そうしたらまた、ちいさな私たちの使命をさがそう。(p.551)