2024年8月、フランスではパリ五輪が開催され、日本では南海トラフのリスクが叫ばれる中、私は単身マニラにいた。
ひしゃげたジプニーがクラクションを絶え間なく鳴らし、夜には痩せた野犬が跋扈するマニラで私が見てきたものを4回に分けてご紹介する第1弾。
【マニラ2泊突発旅行 #1】ぼったくりイントラムロス
大きく分厚い雲を抜けると、知らない海が果てまで広がっていた。
窓際の'A'の席で眠りから覚め、ふと外に目をやるとすでにそこは日本ではないどこかであった。
ZIPAIRの座席はLCCにしては広く、前の座席に足を突っ込み少し背もたれを倒せさえすれば、成人男性が一人眠りこけるには申し分ないスペースを確保できる。
雲を抜け名を知らない海をしばらく眺めていると、陸(正確にはマニラはルソン島なので島なのであろう)が見えてくる。細かい起伏が連なってできた山々を超えると、赤い屋根の小さな集落が見えてくる。
そして小さな集落がやがて大きな塊の街へと印象を変えた頃、私はマニラに着いたのだった。
ニノイ・アキノ国際空港に到着
デジタル化された入国登録をなんとかクリアし、空港内で一番レート良い外貨両替ショップで円をフィリピン・ペソに交換する。いくつか両替ショップはあったが、列ができている両替ショップはひとつだけだったので、すぐにレートのいい両替ショップを見つけることができた。
私が行ったときはおよそ1ペソ = 2.5円で、4万円を約16,000ペソに替えてもらった。
周囲に人がいないことを確認しながら、半分を財布、1/4をリュック、残りをポケットに突っ込んだ。
電波はあらかじめポケットWi-Fiを日本でレンタルしていたのでスムーズに繋げることができた。
移動するために、Grabアプリをダウンロードする。Grabは東南アジアで覇権を握っているスーパーアプリで、これひとつでタクシーを呼べる他、食事のデリバリーや支払い、旅行の申し込みもできる。個人でタクシーを拾って金額交渉するとぼったくられやすいので、常に正規の値段でタクシーに乗ることができるGrabは観光客には必需品といえる。
アプリでドライバーを選び、Grabタクシー乗り場で待機する。はじめ場所がわからなかったが、空港職員に尋ねたところ快く教えてくれた。
屋内から外に出ると、まとわりつくような熱気に全身を包まれた。一瞬マズいかと思ったが気温自体はそこまで高くなく、最近の日本の猛暑と比べるとまだ穏やかに感じられる。
数分待ち、Grabタクシーが到着する。どんな車がくるかと思ったが、トヨタの綺麗な車が来て安心した。
後ろに乗り込み、ここまで迎えにきてくれた礼を言う。特に旅行に目的はなかったが、とりあえずマニラ屈指の観光地である、イントラムロス近くのリサール公園まで向かってもらう。
空港からリサール公園までは道が空いていれば20分ほどで着く距離であったが、マニラ市街の道路はどこも渋滞し、40分ほどかかった。
マニラの交通マナーは日本と大きく異なる。車線変更したければわずかな隙間にも車の鼻を突っ込み、迎える側は入れさせまいと車間を詰める。少しでも前に行こうとするのでいつでも車間距離はビタビタに狭く、当然ぶつかりそうになるのでクラクションがけたたましく鳴り響く。
このスタンスは道を曲がるとき歩行者がいる時でも同様で、横断者がいるからといって止まってくれるわけではないので、渡りたければ多少強引に突破する必要がある。滞在中何度も轢かれそうになった瞬間があった。
ちなみにフィリピンは日本と異なり車線は右で左ハンドルである。
ぼったくりガイドとの邂逅
リサール公園近くのホテル前で降ろしてもらい、アプリからチップを払う。相場は分からないが、マニラ滞在中にタクシーを利用した場合は基本100ペソ(=約250円)チップとして払っていた。
道路は広く道路は混雑している一方で、歩道はガランとしている。この猛暑のもとでは、わざわざ歩いて移動とする気も起きないらしい。
公園の近くに着いた時動物の匂いがしてつと目をやると、馬車に括り付けられた馬が2頭立っていた。目元が隠れているため表情は伺えないが、退屈そうなオーラを放っていた。
威圧感だけ出して何もしてこない警備員の横をアイコンタクトして抜けると、フィリピン国旗はためくひらけた公園に出る。周囲に高い建物が無いためひなただが、広い公園を抜けていく大きな風が気持ちいい。
記念碑の前では2, 3組の観光客が写真をとっており、仕事のないガイドがそれを暇そうに見ている。
唯一のガイドブックとして持ってきた『地球の歩き方 Plat マニラ・セブ』を見ると、すぐ横にイントラムロスがあるらしい。イントラムロスは16世紀にスペイン人によってつくられた城郭都市で、第二次世界大戦ごろまでの教会や要塞を見ることができる。周囲は高い塀で囲われており、中に入るには入り口を探さなくてはならない。
どこから入ろうかと城郭の周りをウロウロしていると、トライシクル(タイのトゥクトゥクのような乗り物)にのった日に焼けたおっちゃんが話しかけてきた。
ぼったくりガイドであろうと適当にあしらい歩き出すと、またおっちゃんが着いてくる。再度あしらい歩き出すが、おっちゃんが何かを警告するような口調で捲し立ててくるので、気になり一度足を止め話を聞いてみることにする。
クセのあるフィリピン英語をなんとか聞き取ってみると、この暑さで歩いて観光するのは無理だから、自分の車に乗れとのことだった。
やはりぼったくりガイドかとまた歩き出すが、おっちゃんはすかさず食い下がってくる。ガイドマップを見せ、自分の車に乗れば各観光地をホッピングする形で見られるから効率が良い、ガイド料金も安いとしきりに営業してくる。
どう考えてもぼったくりであることは明白であったが、あまりの暑さに参ってきてしまっていたのは確かで、もし何があっても命までは取られないだろうと結局は了承した。
料金を聞くと100ペソ(=250円 安いのが余計に不審だが)だと言うので先払いし、覚悟を決め後部座席に乗り込んだ。
トライシクルでイントラムロス観光
エアコンのついていないトライシクルはむし暑いかと思ったが、日影に常に風が吹き込むので望外心地が良かった。
おっちゃんは運転中も気さくに話しかけてくれ、これまできた日本人観光客の話や自分の子供、フロントガラスにプリントされたなぞの日本語「スピードハンターズ」について話してくれた。
スムーズにイントラムロスの城郭内に入ると、さっそく最初の観光地サンチャゴ要塞へと到着した。
入場料は200円ほどで、入ってすぐのチケットブースで現金でのみ買える。ほかの場所でも同じだが、額の小さなものの購入に高額紙幣を出すと露骨に嫌な顔をされたり、時に拒否されることもあるので、外貨両替のタイミングで100ペソや200ペソを多めにもらっておくと良いと思う。
観光が終わるまでおっちゃんは外で待っててくれるという。
中はイントラムロスのなかでも観光地としてしっかり機能しており、定番のお土産やさくっと食事の取れるカフェなどもある。所要時間は30分ほど。
サンチャゴ要塞は戦争の跡が生々しく残る要塞で、大砲のレプリカ(ホンモノかも?)や銃弾で欠けた壁を見ることができる。おっちゃんの話では地下に続く防空壕のようなものも見られると言っていたが、見つけることはできなかった。
30, 40分ほどフラフラして外に出るとおっちゃんが暑い中汗だくだくで待っていてくれた。申し訳なさを感じつつ次の場所に案内してもらう。
続いて訪れたのはマニラ大聖堂で、外でおっちゃんにカメラマンをしてもらい中に入る。おっちゃんは自称ガイド兼ボディーガード兼カメラマン兼ドライバーだと言って笑っていた。
マニラ大聖堂はキリスト教の教会で、中には観光客の他、クリスチャンと見られる人の姿もあった。
大聖堂は荘厳なつくりで、ステンドグラスは色遣いが華やかである。人の身長ほどある大きな十字架には磔になったイエスなどが細やかに彫刻されており見事であった。
その後少し移動し、病院や誰かの生家、きれいな結婚式場を写真を撮ってもらいながら回った。観光地じゃなさそうな場所もあったが、とりあえずおっちゃんの言うままに移動し写真に収めながら進んだ。
フィリピン唯一の世界遺産 サン・アウグスティン教会へ
次に訪れたのはフィリピンで唯一の世界遺産にも登録されているサン・アウグスティン教会である。
おっちゃん曰く、屋根を病院と同じにすることで日本軍の標的から外れ、第二次世界大戦の戦火から免れ美しい姿のまま残っているらしい。
鐘撞堂はもともと2棟シンメトリーに建てられていたが、一方は地震によって倒壊してしまったためそちらの鐘は内部に展示してある。
教会内はみごとの一言に尽き、息を呑むほどすばらしかった。
繊細で美しいシャンデラがぶら下がる彫刻された天井は重厚感をもたらし、その天井をまた太い柱が支えている。正面のご本尊はロウソクとステンドグラスからもれる光に照らされ、えも言われぬ神々しさを感じさせる。
教会の分厚い壁はそとの蒸し暑さと騒音を遮断し、深い森林のなかに入ったような錯覚をもたらせてくれた。
そのあとはスペイン統治時代の上流階級が暮らしていた家屋を再現したカサ・マニラ博物館を見学し、マニラについてからわずかな水以外何も口にしていないことに気がつき併設されているカフェでレモネードを飲んだ。
蒸し暑さの中であまり感じられていなかったが身体はカラカラに乾いていたようで、甘酸っぱいレモネードが身体中に染み渡っていった。
そのあとは強い西日を浴びながら塹壕のようなサン・ディエゴ要塞を見学し、また移動。
移動中もバスガイドのようにこの建物は私立の学校で金持ちが通っている、ここは国営の新聞社で中に巨大な印刷機があるなど逐一教えてくれた。おっちゃん自体は優しいが、多くのフィリピン人がそうであるように運転自体は荒く、馬にまでクラクション鳴らして割り込むのはだいぶ怖かった。
おっちゃんはあるホテルの前に車を付けると、エレベーターで上に上がるといい景色が見られるというのでとりあえず中に入る。対応や客層をみると、なかなか格の高いホテルのようである。
入っていいのかイマイチ微妙だったが、ホテルのボーイも快く案内してくれるので素直にエレベーターを上がっていく。
最上階で降りバルコニーに出ると、今日一日巡ってきたイントラムロスがすべて目に飛び込んできた。イントラムロスの城郭の外は現代的な高層ビルがそびえ立っているのが見え、マニラの経済発展を直に感じられる。
いざ支払いの時
マニラの景色を見ながら、やはり来てよかったなと改めて感じた。
出発の2日前に急遽航空券を取り、何も目的を持たぬまま飛行機に飛び乗りここまで来た。
マニラ市街につくまでイントラムロスの存在すら知らず、ましてやサン・アウグスティン教会やこの眺望を楽しめるホテルのことなどつゆ知らなかった。
そう思ううちに、初めは疑念しかなかったおっちゃんに対しても感謝の気持ちが芽生えてきた。もし本当に最後お金を請求されなくとも、5,000円くらいは出したいと思ったし、それにかなう十分な価値はあったなと思った。
車に戻り、最後お酒の博物館のようなところに案内してもらった。500円ほど払うと中で試飲ができるというので、そのコースにしてもらった。
中はどのようにフィリピンで独自のアルコール製造技術を発展してきたが展示されており、その過程で重要な役割を果たした人物の写真がデカデカと掲げられていた。
マニラにいる間通して感じていたことだが、フィリピンの人は個人の功績を大切にするというか、英雄的なものを好む傾向があるようだ。さまざな場所で個人名がついた道や銅像を見かけた。
試飲はオススメを6種類ほど試させてもらい、全体を通して甘いものが多かった。マンゴーやチョコレート風味のものはとても飲みやすく、外で飲んだらスルスルといってしまい危ないだろうと思った。
少量ずつの試飲であったがさすがにラムストレートは強烈で、飲み干した後身体がカッと熱くなった。
ほろよいでおっちゃんの車に戻ると、顔が赤くなっていたのがバレ笑われた。
いい気持ちでそろそろホテルにチェックインしたいなと思ってると、おっちゃんがガイド料の話を始めた。
1時間1,400ペソで、3時間だから4,200ペソ(=約10,500円)だね。
そりゃそうではあるが、今日一日のなかでおっちゃん善人に思い込み始めていたところがあり、そのドライな会話とリアルな金額に冷めた。
ごねることも出来たが、出せる金額であったことと、おっちゃんがしっかり働いてくれたという事実から言い値で出すことにした。
ただ、スッと渡すのは癪だったので一言、騙されたのは悲しかったが、いいガイドだったよと伝えて料金を手渡し、ホテルまで送ってもらった。
ホテルにチェックイン
ホテルはマラテ地区の繁華街の真ん中にあるリヴェラ マンション ホテルで、私が予約したタイミングでは一泊6,000円ほどだった。
目の前はカジノ、となりはキャバクラ、道にはキャッチと乞食と売春婦がひしめき、かなり治安は悪い。イメージとしては歌舞伎町の真ん中のような場所だった。
受付スタッフに日本語がわかる方がいらっしゃり、チェックインもスムーズに終わった。カードキーを受け取りエレベーターに乗り込む。ラッキーなことに、最上階の部屋のようである。
部屋はとても清潔で、アパホテルの部屋と同等のクオリティだった。
風呂トイレはユニットバスで、バスタブがありシャワーからは温水が出る。アメニティも最低限は揃っている。そのほかテレビ、冷蔵庫、エアコンはついてた。
部屋に着いた時点で17時ごろで夕飯は外でとる予定だったが、一日中かいた汗がぐっしょり服に染み込んでいたので、とりあえずシャワーを浴びて着替えることにした。
ほかのサイトの情報ではシャワーが熱すぎるとあったが、私の時には適温で出てきてくれた。
一人でシャワーを浴びているとマニラについてから緊張していた神経がときほぐされ、少し眠くなってきた。新しい服に着替え、スマホを充電しがてら少し眠った。
ショッピングモールでJollibee初体験
目覚めると、18時をすこし過ぎたくらいだった。外まだ明るく、ホテル前の通りも賑わっていた。
今日一日朝から一回も食事をとっておらず、さすがにお腹が空いてきた。Googleマップを見ると徒歩5分ほどのところにショッピングモールがあるようなので行ってみる。
簡単なセキュリティチェックを経て中に入ると、中は外のカオスとは打って変わり整然としている。きれいだなと思うと同時に強烈な既視感に襲われる。それは考えるでもなく日本のイオンだった。
よく見れば印象だけでなく店も一風堂やCoCo壱、丸亀製麺とガッツリ日本ではないか。安心感から日本のチェーン店に吸い込まれそうになったが、さすがに異国での一食目でそれはバカバカしいので現地の人気店を探す。
ウロウロ適当に歩いていると、Jollibeeがテナントとして入っていることが分かった。Jollibeeはフィリピン最大手のファストフード店で、その人気はマクドナルドをも凌駕する。ショッピングモールには大抵入ってる他、街中を歩いていてもかなりの頻度で見かけた。
料理はフライドチキン、ミートソースパスタ、ハンバーガー、ライスがメインで、これらを組み合わせたセットから選ぶ形式なっている。写真のライスがあまり美味しそうでなかったので、辛いフライドチキンとミートソースのセットを選択した。これにソフトドリンクがついて500円ほど。
味は一言でいえばチープで、おもちゃみたいな味だなと思った。不味くはないが、旨みがない。
ただお腹は空いていたのであっという間に食べ終え、また散歩することにした。
外はいつのまにか日が落ちていた。夜の繁華街がギラつきはじめている。
歩いているとキャッチや物売りがひっきりなしに声をかけてくる。日本人はよいカモのようで、日本語でも多く話しかけられた。カラオケ(実態キャバクラ)、マッサージ、偽物のヴィトン売り、シンプル物乞い、野良売春婦と私の財布を狙う人々は多岐にわたる。
また人間だけでなく動物もあちらこちらにおり、とくに野良犬はなにもしてこないと分かっていても怖かった。
足早に危険な通りを抜け、LAカフェで2, 3杯ビールを飲みホテルへと戻り1日目は終わった。