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【本好きならきっと共感できる】島田潤一郎『長い読書』

オススメ度:★★★★★

でも若い僕にとっては、文体こそがすべてだった。(p.69)

 

島田潤一郎『長い読書』

 

 本書のエッセンス
・読書好きの気持ちが見事に言語化されている
・小説はつくり話だとバレてはいけない
・好み過ぎる文体

 

感想

みすず書房といえば人文学書のベストセラーを多く抱える有名な出版社で、代表的な出版物だとV・フランクル『夜と霧』や神谷美恵子『生きがいについて』などがある。

『夜と霧』はナチス・ドイツによってアウシュビッツに収容された医者が極限状態の中での人間を観察した本で、『生きがいについて』はハンセン病の病棟で暮らしながらも希望を絶やさない人を観察した本であり、どちらも人間の本質にせまるザ・人文学といった作品になっている。

 

『長い読書』の著者は作家であり書店経営者の島田潤一郎氏で、1976年生れとみすず書房から出版された作品の筆者の中では若い部類に入る。

 

この本は筆者の読書体験を中心としたエッセー集である。

読書体験と一口に言っても、それはただ本を読むことだけに限らない。

小さな本屋に足を運ぶ、大きな本屋に行く、子供の頃漫画雑誌の新刊を楽しみに待つ、本の手触りを感じる、古本の香りを嗅ぐ、小説を読む、ドキュメンタリーを読む、本を積む。

その全てが本好きの人にとって日常であり、特別な瞬間である。

 

このエッセーを面白いと感じたのは、筆者がこれらの瞬間瞬間に感じたことや考えていることに、恐ろしいほど共感できたためである。

読んでいて、そうそう、分かる分かる、という文章の連続で心地が良い。自分の中でぼんやりとしかイメージのなかった日常の心理がみごとに言語化されている。

毎日大学の教室で簿記の基本を叩き込まれていたが、その経験は間違いなく、いまの仕事に生きている。ただ、それだけだと、片落ちのように思うのだ。(p.26)

ときおり、部活に全力を注いだ人が急にボールを蹴ったり、短い距離を思いっきり駆けてみたくなるように、どれだけ読んでもなかなか終わらなかったり、理解できなかったりする本を読みたくなって、仕事帰りに新宿の紀伊国屋書店や、池袋のジュンク堂書店本店へ立ち寄った。(p.131)

 

それともう一つ、この本から感じた魅力は文体にある。

これについては完全に感性や相性の問題になるが、これまで本を読んできて初めての作家でこれほどまでにピッタリくる感触を味わうことはなかった。

本屋で何気なく手に取り、適当に開いたページを1行読んだだけで、圧倒的な心地よさを感じた。

独特なわけでもテクニカルなわけでもないが、ここまでの心地よさを感じる文体には出会ったことがなかった。衝撃的だった。

 

そう思い読み進めていくと、筆者が文体について語った章があった。ここで文体の心地よさについて語られており、また共感してしまい嬉しくなった。

でも若い僕にとっては、文体こそがすべてだった。(p.69)

 

学生の頃から本を読み、本を拠り所にしてきた人にぜひ読んでほしい作品だった。