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【本の紹介】『11人の考える日本人』【近現代思想史】

オススメ度:★★★★☆

 

鎖国を解き、列強のなかで揺れる日本。様々な思想が入り混じる中で偉人たちは自分なりの答えを見つけていっていた。

高校の倫理の教科書より一歩踏み込んだレベル感で、読みやすく面白い新書になっている。

片山杜秀『11人の考える日本人』

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そうだったのか!

大学受験の主選択が「世界史」であった私にとってとても丁度いいレベル感で、どの章でも「そうだったのか」というポイントがありとても楽しめた。

 

例えば有名な美濃部達吉の「天皇機関説」を教科書で読んだ時には、当時にしては天皇を随分と軽んじて論じているなと感じていた。しかしこの本を読むと、決して美濃部の主張はそうではないとわかる。

ただし、先に述べたように、天皇は国家の最高機関なのです。それを定義づけるのは、むろん憲法ということになる。(p.100)

天皇は機関ではあるが、他の機関と同列に存在するのではなく、国家の最高機関であることを主張している。高校時代には美濃部は天皇を単なる部品に過ぎないと主張していると勘違いしていた私にとってこれは驚きであった。

 

意外性にギャップを感じた思想家もいた。『遠野物語』などで知られる柳田國男は、隠居気味の温厚な大学教授の様なイメージを持っていたが、意外にもラディカルな思想を持っていることがわかった。

淘汰される零細農家は滅びるに任せればよいのだ(p.193)

柳田がここまで自由主義ど真ん中の思想を持っていたとは意外であった。現代に生きていればゾンビ企業を一掃するような政策を提言しているかもしれない。

 

最後に自分用のメモとして「八月革命」について簡単に記載しておく。

「八月革命」とはポツダム宣言受諾を持って日本が革命を迎えたとする説。丸山眞男の師で憲法学者の宮沢俊義が唱え、現在でも憲法解釈の世界において覇権を握っている。

マル経においては明治維新が革命か否かの議論が戦前において活発に行われていた。(労農派vs講座派)

結局戦争期において左派が取締られてしまったためこの議論は下火となってしまうが、もし彼らが戦後にも論壇に登場していれば「八月革命」を革命とみなすかどうかの結論が出たかもしれない。

 

近現代のオピニオンリーダーと呼ばれる人たちは独自に日本を考え思想としてまとめあげてきた。現代の論客はどうであろうか。ただの「オピニオン」に留まってはいないだろうか。

衰退期を迎えた日本にこそ時代を象徴する思想家が求められている。