オススメ度:★★★☆☆
時々自分らしく生きられる場所は、別の世界にあるのような気がする
『ヘラクレス』
あらすじ
神ゼウスとヘラの間にヘラクレスが生まれる。天界中が誕生を祝福する中がする中、この誕生を疎ましく思うものが一人。オリンパスの支配を目論むハデスである。
ハデスは将来ヘラクレスが自分の野望の邪魔になると悟ると、ヘラクレスを人間に変え殺すよう部下に命じる。しかし部下がドジを踏んだため、殺されることなくヘラクレスは半神半人となり人間界に落ちる。
優しい夫婦に拾われ青年にまで育ったヘラクレスだったが、わずかに残った神の力の怪力をコントロールできず、街の人から距離をとられてしまう。ヘラクレス自身も、自分らしく生きられる場所は別の世界にあると考えるようになる。
育ててくれた夫婦から真実を聞いたヘラクレスは、本当の自分を知るためゼウスの神殿に行く。しかしそこで、再び天界に戻るためには、人間界で本当のヒーローにならなくてはいけないと知る。
ヘラクレスは師匠となるピロクテテスを訪ね、ヒーローになるための修行を始めるが...。
感想
ディズニーランドの人気アトラクション「イッツ・ア・スモールワールド」。ここではエリアごと各国の衣装を着た子どもたちとともに、ディズニーのお馴染みのキャラクターたちも見ることができる。ヨーロッパエリアには「シンデレラ」や「塔の上のラプンツェル」、アフリカエリアには「ライオン・キング」といった具合である。
人気キャラクターが並ぶ中、アジアエリアに見慣れぬ人形がいる。小さなペガサスが乗っかったギリシア風の建物を、赤毛の少年が持ち上げている。
このキャラクターこそ本作品の主人公ヘラクレスである。せっかく専用の人形がつくられてはいるのに、知名度ゆえに素通りされているところをよく見る。悲しかな。
『ヘラクレス』は1997年に公開されたディズニー長編アニメーションである。
90年代のディズニーは「ディズニー・ルネサンス」と呼ばれる黄金期のなかにあった。90年代の他の作品には『美女と野獣』、『アラジン』、『ライオン・キング』などの名作が並んでいる。1989年の『リトル・マーメイド』から数えると、ディズニーは5作連続でアカデミー賞を受賞し、まさに人気の絶頂にあった。
そんな黄金期の作品ではあったが、「イッツ・ア・スモールワールド」の例に見るように『ヘラクレス』はやや影が薄い。
私が思うに、人気のあるディズニー映画は3つの要素を満たしている。その3つとは①魅力的なキャラクター、②ステキな世界観、そして③素晴らしい音楽である。
『ヘラクレス』に関して言えば、③は申し分ないが、①と②についてやや問題がある。
まず①魅力的なキャラクターについて。
『ヘラクレス』にも魅力的なキャラは存在する。厭世的でミステリアスなメガラ(メグ)や野心家ながら出来の悪い部下にいつも苛立っているハデスは人気があり、よくコスプレされたりディズニーのショーに登場したりしている。
一方でヘラクレスは主人公であるにも関わらず、キャラクターとしての深みにかける。
たとえばアラジンは自分より貧しいものに優しくする強さを持ちながら、一方で恋するジャスミンと結婚するために嘘をついてしまう弱さも待ち合わせる。『美女と野獣』のベルは父を助けるために愛する野獣を危険に晒してしまったことに嘆く。
こうしたギャップや葛藤は個性を立たせる。そしてキャラクターに深みが与えられ、ひいては物語自体の深みにもつながっていく。こうした深みが、主人公であるヘラクレスには無い。
次に②世界観について。
『ヘラクレス』の舞台は古代ギリシアと、設定としてはかなり良いように思える。古代ギリシアには独特な建造物や街並みがあり、他との差別化もしやすい。
しかし作中の描かれている街の風景はディズニーとしては珍しくディテールに欠けている。見ていて「この街に行ってみたい」と思わせるような迫力がない。この問題はパークに『ヘラクレス』のアトラクションがないことにも繋がっているように思える。
ここまであまり良い点が無かったが、③音楽についてはディズニー映画の中でもトップクラスではないだろうか。
「Go the Distance」をはじめ、「Zero to Hero」、メガラの歌う「恋してるなんて言えない」と素晴らしい曲が揃っている。
ディズニーの名曲がオーケストラによって演奏される「ディズニー・オン・クラシック」でも、『ヘラクレス』の曲はよく演奏されている。
さらに日本語版の「Go the Distance」は藤井フミヤによる歌唱であり、これがまた素晴らしい。ディズニー+でもエンドロールを日本語にすると聴けるので、本編を英語で楽しんだ人にも是非エンドロールは日本語で聞いてもらいたい。さすがは名作曲家アラン・メンケンの作品である。
いつか「ディズニー・オン・クラシック」で『ヘラクレス』メインの回をやってくれたら嬉しいなあと思う。