オススメ度:★★★★☆
みなさんはサブカルと聞いてどんなイメージがあるでしょうか。
今でいうとビレッジヴァンガードにおいてあるような斜に構えていたりズレているような漫画やコンテンツというイメージがありますが、ひと昔前のサブカルはもっとアングラな世界でした。
何が書いてあるか
筆者が世の中に対してモヤモヤしていることや、実際に取材したルポルタージュなどが書かれています。
全5章構成で、それぞれのテーマが現代、病、死、脳とクスリ、近ごろのマンガとどれもこれも興味を引くものばかりです。
ぶっ飛んでる一般人からカルト宗教まで刺激的な話題がズラリと並んでいます。
面白かった話
以上のテーマから面白かったものをいくつか紹介します。
1.なんで人は電話を持ち歩くようになったのか?(p.17)
現在では誰もがスマホを持ち運ぶ時代になりましたが、この本が描かれた当時は「コードレスホン」なんて名前でした。
鶴見済は部屋の中で重要な電話・テレビ・時計のうち、電話と時計がどんどん体にまとわりつくようになったことから大事なものを"時間"と"情報"と"通信"だと見抜いています。
このことから本質を見抜くことは未来を見通すことに繋がるのだと思いました。
2.「日本ネオナチ」の入団式(p.75)
今はもうなくなってしまったネオナチ集団「国家社会主義者同盟」の入団式を取材した記事。
だんだんと見るからに異質なものがなくなってきて、今のような「お行儀のいい」社会では見られなくなってしまったものがまだまだ30年ほど前には残っていたのだなと感じました。
3.昭和の文豪はどうやって自殺したのか?(p.161)
自殺した三島由紀夫、太宰治、芥川龍之介、川端康成の死に様をシニカルでありながら唾棄することなく書いた記事。
この手の話はしばしば美化されすぎていたり逆にとことん軽蔑したような視点で描かれることが多い中で、文としての面白みを損なうことなくわかりやすく解説している点がよかったです。
感想
この本を読んでいて、ショウペンハウエルの『読書について』を思い出しました。
『読書について』の中では「読書とは人にものを考えてもらうことであり、それは自らの思索に及ばない」という趣旨のことが主張されています。
私たちはものを考えるときに、どうしても今までの経験や読んだ本の影響を拭きれずにいます。
もちろんそれがより深い考察に繋がることもありますが、一方で世の中を色のついたレンズでしか見れなくなるということでもあります。
『無気力製造工場』を読んでいて気付いたのは、鶴見済がレンズを外して現実100%を見て語っているということです。
様々な社会の辺境をインタビューして回る中で、普通ならば(社会的に見て)可哀想だ、とかダメなやつだとかレッテル貼りをしてしまうところを、鶴見済はありのままに見て発表しています。
だから冷血なようにも毒を吐いているようにも見えることもありますが、現実をクールに語っているだけなのです。
大事なのは目の前の現実や問題であり、色のついたメガネを通して見える問題とは本当に私たちにとって重要な問題なのだろうか、ということを考えさせられました。