先日部屋の掃除をしていると懐かしいものを見つけた。
この高校生に読んでほしい50冊は新潮文庫が毎年配布している冊子で、集英社がおすすめしている本のあらすじとおすすめポイントが簡単にまとめられている。
調べてみると中学生に読んでほしい30冊、新潮文庫の100冊 と全部で三種類が出ているらしい。私はこの冊子を高校の図書館でかっぱらってきた覚えがある。
私の高校生活というと、やりたいことだけやって興味のないところにはとことん興味を示さず、やりたいことのない時にはぼんやりと過ごしていた。
特にひどかったのが高校一年生のときで、特にとがっていたわけでもなく無気力で、テストなんかでも問題文を読まずにほぼ白紙で提出していた。
くだらないと思っていたわけでもつまらなかったわけでもなく、ただ何となく退屈だった。
授業も聞く気が起きずスマホゲームに精を出してみたりもしたがそれもすぐに飽き、とにかく時間だけが膨大にあった。有り余る時間のなかでただ脳が錆びていくのをただ感じていた。
耐え難い退屈から逃れようと、秋ごろから読書を始めた。
この頃からつけ始めたと思われる読書記録をみるとキッカケはブックオフで速読の本に出会ったことの様で、結局速読はできるようにならなかったがむさぼるように本を読み始めた。長らく刺激を受けていなかった当時の私にとって本は砂漠で見つけた小さなオアシスそのものだった。
とにかく読書最優先の生活を送るようになり、休み時間も授業中も周りにかまわずずっと本を読んでいた。本を読むことが使命かのように思われた。
おかげで9月には1冊も読んでいなかった読書量は10月には35冊に爆増した。
次の年の夏、学校の図書館でこの青い冊子を見かけた。
その頃はあまり小説は読まなかったが、なんとなく可愛い冊子が気になり持ち帰った。
パラパラと冊子をめくっていくと、あるページで手が止まった。
恩田陸『夜のピクニック』の紹介ページであった。
この本は知っている本だった。
中学生の頃に受けた模試の国語の問題としてこの本から出題され、試験にも関わらずめちゃくちゃ面白いと思い出典をこっそりメモり覚えておいた。
その時はとても気になったこの本だがいつしか忘れ、中学生の時に読むことはなかった。
そんな記憶がよみがえり、ふと読んでみたくなったので図書館で置いてあるかどうか尋ねてみると、この冊子に載っている本はすべて揃えてあるということだったのでさっそく読んでみた。
とてつもなく面白かった。王道の青春を描いた作品でありながら決してチープでなく、読むと爽やかな風を感じると同時に心をゆさぶるものがある。
それからというものこの冊子の他の作品にも興味を持つようになり、普段の自分の読みたいものに交じって少しずつ読むようになった。
この冊子に掲載されている作品はどれもこれも傑作で、自分の好きな小説ランキングを作るとすれば上位のほとんどをここに載っている作品ばかりになるかもしれない。
ここの作品たちはどれもこれも大好きな物ばかりで、『夏の庭』からは老人と少年たちとの交流は夏を感じられ、『沈黙』には衝撃とショックを受け、『西の魔女が死んだ』は泣いた。
それでもどれか一つ挙げろと言われれば佐藤多佳子の『黄色い目の魚』を選ぶ。
この本は人生で3回読んだ本で、初めて読んだのは高校二年生の夏だった。
いつものように授業中読んでいると、いつ間にか引き込まれ、気づいた時には読み終わって放心状態になっていた。
冷静になり何が良かったか分析しようとしたができなかった。
キャラが感情移入しやすかったとかストーリーが好みだったとか、そういう次元じゃないところで魂ごと持って行かれた。
なんならばストーリーどころか登場人物の名前すら思い出すことができなった。夢を見ていたようだった。夢を見せられていた。
その後高校を卒業してから2度ほど読んだ。
もちろん文句なしで面白い小説であったが、高校時代に感じたあの感覚は戻ってこなかった。
「何を読むか」ということはもちろん大事だが、それと同時に「いつ読むのか」ということも重要になってくる。
『黄色い目の魚』は私にとって高校時代がベストのタイミングであった。
この冊子は「高校生に読んでほしい50冊」とあるように、高校時代に読んでほしい本が集められている。
高校時代にはその時にしか持っていない感性がある。
是非とも高校生のみなさんが読む本を探す際には参考にしてみることをオススメしたい。
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