オススメ度:☆☆☆
イギリスで一番有名な政治家といえばチャーチルではないだろうか。
世界史の教科書や資料集でも写真付きで登場し、ヤルタ会談ではローズベルト米大統領の横ででっぷりと座っているのが印象的である。
『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』は第二次世界大戦中首相に祭り上げられたチャーチルの人間としての面を描いた映画で、横柄で身勝手でありながら正義感と愛国心のはざまで苦悩する姿を描いている。
主演のゲイリー・オールドマンはハリーポッターやバッドマンにも出演している名優である。この映画でチャーチルを演じるにあたってメイクアップアーティストの辻一弘(当時は一度映画界から引退済)に直接オファーを出し、辻が担当しなければ自分はおりるとまで言い口説き落とした。
2018年のアカデミー賞ではオールドマンが主演男優賞を、辻がメイクアップ&ヘアスタイリング賞をそれぞれ受賞した。
本作品は横暴でありながら迷い悩み、時に涙を流し苦悩するチャーチルの姿を描いたものであるため、史実に基づいた戦争映画を見たいという人にはやや不満が残るかもしれない。
ウィンストン・チャーチルとは
ウィンストン・チャーチルはイギリスの政治家で、首相を2回務めている。
性格は身勝手で横暴、好戦的でしばしば人に威圧的な態度をとる。
ウィンストンは1874年オックスフォード近郊の宮殿で生まれた。
父は貴族でのちの大物政治家、母はアメリカ人の富豪という恵まれた環境のなかでウィンストンは育った。
学校の成績は全科目最下位と散々であり、素行の悪さも相まって鞭打ちの刑(英国上流階級独特のスパルタ教育の一環)に処されることもあった。
学問が振るわない一方で軍事訓練や戦争史しは興味をもち、騎兵科の士官候補生となった。騎兵将校になったチャーチルは戦争が起こりそうにないことを残念がり、自ら志願して他国の紛争に加わったりしていた。
将校除隊したチャーチルは保守党から立候補し当選、父と同じ政治家としてのキャリアをスタートした。
その後は自由党、再び保守党と鞘を変えながら第二次世界大戦中の1940年、挙国一致内閣において一度目の首相を務めた。
チャーチルはドイツ軍による空爆を受けた街を視察して回り、国民からの人気と支持を集めていった。この時見せていた勝利のVサインはチャーチルの代名詞となり、人気の一因ともなった。
戦後労働党のアトリーに政権が一度移るが、1951年には再び保守党として首相を務めた。1955年に首相の人気を終えた後も議員を続け、その生涯のほとんどを政治家として過ごした。
脳卒中により左半身をマヒに侵されたチャーチルは1965年1月息を引き取った。
弔問には30万人が訪れ、葬儀には慣例を破りエリザベス2世女王も出席した。
感想
最初は戦争の緊迫感が味わえる映画かと思ってみたのでやや物足りなさを感じた。
第二次世界大戦でイギリスが勝つことは分かっているのであまり違和感がないが、チャーチルが国民を戦争に駆り立てていくシーンでは勝つから官軍なのであって、これで負ければとんでも一級戦犯だと思った。
司令部の葛藤や作戦を楽しみに見るとがっかりするかもしれない。
戦争ものとしての物足りなさはあったが、"人"として面白いチャーチルのキャラクターに次第に引き込まれていった。
人から指示されることを嫌い、暴君のごと振る舞うチャーチルであったが内面では不安を感じ、常に何かを恐れ戦っていた。
そんな彼を支えていたのは結婚以来横暴な夫に耐え続けてきた妻と望郷の念であった。
チャーチルは故郷の尊さと美しさを知っていた。彼には情緒があった。
そのためにドーバー海峡を超えて大陸で戦うイギリス国民に故郷をもう一度見せてやりたいと切望したいた。
その手段として憎きナチスとの和平か一部の犠牲を伴う戦争かの岐路の立たされた時、チャーチルは戦争を選んだ。
国家の未来のために犠牲になる命に対して、チャーチルは責任を取ることを決めた。
指導者の資質として、カリスマほど強力なものはない(同時に独裁者最大の素質でもある)。
彼のカリスマが、国民に宿るナショナリズムの火をさらに大きなものにした。
そんな彼にも弱さがあり、不安に思うことがあり、恐れることがあった。
この性格における対極的な面が彼の人格にユーモアを与え、カリスマを生み出したのかもしれない。