本と絵画とリベラルアーツ

本と絵画の解説

散歩でクリエイティブになろう

半年ほど前、長年乗っていたママチャリがパンクしました。

愛着のあった自転車だったので修理してまた使おうかと思いましたが、改めてよく見てみるとなんともみすぼらしい姿で、タイヤの交換では済まない気がしたのでそのまま廃棄することにしました。

それ以来、駅までの道のりや短い距離の移動を歩くようにしています。

 

自転車が壊れてしばらくは自転車が無いことによって朝の数分で惜しい思いをしたり、疲れて帰ってきたときには駅を出て徒歩で帰らなくてはならないことにうんざりしたりしていました。

あまりに疲れている時には、うっかり何も止めていない駐輪所に寄って「そうだ、自転車はもう壊れたんだった・・・」とがっかりすることもしばしばありました。

 

この頃はずいぶんと徒歩での生活にも慣れてきて、緊急の場合を除き自転車や車は使わなくなりました。むしろ、駅までの道のりを歩きたいとさえ思うようになってきました。

もともと歩くのは嫌いではなかったので、しばらくは自転車なしの生活になりそうです。

 

歩いていると、せかせか移動していては得られないたくさんのものを得ることができます。

もちろん、心をなくしていると気付かない景色や町の様子もそうですが、それ以上に脳のクリエイティビティな領域について良いことが多く起こるように感じます。

 

通いなれた道を通るときや、所在なく町を歩いている時には一時的に何も考えていない状況になります。現代、ふつうに生活していると、人と話したり、スマホをいじったりしているだけで、日々とんでもない量の情報を浴び続けることになります。

無意識にうちにも五感は過敏に働き、脳内ではせっせとインプットが行われています。

 

これが一転、半強制的にインプットを制限された状況になると、脳はアウトプットに集中することになります。脳に送られる情報量が大幅に減少すると、今まで蓄積された情報が自然に溢れ出すようになります。

これが、創造的思考の土壌を形成する条件のひとつとなるのです。

 

そもそも、創造的思考とはどういうものなのでしょうか。

 

脳科学者の茂木健一郎によると、「創造のプロセス」と「思い出すこと」は近い関係にあるそうです。「思い出すこと」とは、脳科学的に説明すると脳の側頭連合野に蓄積された経験を前頭葉が引き出すことを言います。

一方で「創造」とは、前頭葉が記憶や知識を引き出す過程でそれらを結びつけることで生まれるのです。想起も創造も脳の中では同じ領域において処理されているのです。

クリエイティビティな人は一見、天才的な感性で未知のものを生み出すように思われますが、そうではないのです。

あくまで材料はその人の頭の中にあり、それらを人と違った視点で結びつけているだけなのです。

 

創造の本質は編集です。

 

外山滋比古も「思考の整理学」の中で、創造力を“知のエディターシップ”と表現しています。

外山滋比古はこの本の中で、問題を寝かせておく有用性についても触れています。

なにか問題が起こると、頭の中がそれに支配されてうまく物事を考えられない状況に陥ってしまいます。

そこで、いったん考えるのをやめ、問題を寝かせておくことでかえっていい結果をもたらすといいます。

混沌とした脳内の知識をいかに意外性を持ってつなぎ合わせるかが、新しい発想のカギになります。

 

創造的思考のパフォーマンスを高めるには、環境の整備が必要になります。

いくら思考が脳内で完結する話だとしても、ほかのことに気を取られて集中できなかったり、神経を害するような環境ではいい発想は生まれません。

 

ポイントは三つあります。

一つ目はさっきも上げたとおり、脳へのインプットが遮断されてアウトプットに集中できる環境であること。二つ目は精神が穏やかであること。そして三つ目は脳に十分に血液がいきわたっていることです。

これらの条件がそろうことで、やっと創造的思考に最適の環境が生まれるのです。

 

そして、これらの条件を満たすことが出来るのが散歩なのです。

 

ちなみにこの三つの条件を日常生活の同時に満たすことができる他の例はシャワーを浴びている時です。シャワーの音が心地よい快感を与え、血流がよくなります。

みなさんもシャワーを浴びている途中にふと思い出しごとをすることがあるのではないでしょうか。

しかし、一日の中でシャワーを浴びている時間はほんのわずかなので、考える時間を増やすために散歩をおすすめします。

 

歩くことは心と身体の両方を満たしてくれます。

一定のリズムで歩くことで思考にリズムが生まれ、第2の心臓である足を使うことで全身に酸素がいきわたります。

また歩行禅という言葉もあるように、歩くことによって精神的が安定する効果もあります。

 

よく数学者は考えが行き詰ると散歩に出るといいます。

歩いていれば、いやでも脳がアウトプットに専念するようになります。

結果として、散歩に出ることで机の上では出てこない、柔軟な考えが生まれるようになるのです。

 

もし自分がインプットに寄ってしまっているなと感じているならば、外に出て見慣れた道を一周してみましょう。中途半端に物事を考えているときよりもずっとクリエイティブになっているはずです。

 

 

思考の整理学 (ちくま文庫)

思考の整理学 (ちくま文庫)